2020/10/19

好きなもので食べていく
弁天通りの山の店「sokit」
長島さんが作ってきた山カルチャー

繁華街でも山の近くでもなく、「練馬」にあるアウトドア用品店。
そう聞いて、どんなお店を思い浮かべますか?

私、栗川は、「こだわりある店主のセレクトが効いた面白いお店に違いない」と思い、取材が決まった時からワクワクしていました。sokitは、練馬駅へと続く弁天通り商店街のほぼ中央、洋品店などが並ぶ一角にあります。一見するとお洒落な住宅のようにも見える白い戸建てが、知る人ぞ知るアウトドア用品店です。

花水木の会の矢吹さんと共にお店に入ると、店主の長島さんが迎えてくれました。

2012年、長島さんが練馬にお店を構えたのは、実家が近い上に、山と街のバランスが良い場所だと感じたからだそうです。
たしかに23区の西端に位置する練馬区は関越自動車道の起点であり、電車に乗れば秩父まで一本で行くことができ、山が近い区です。一方で、練馬駅では都営大江戸線、西武線、直通している東京メトロ有楽町線と副都心線が利用可能で、都心へのアクセスも充実しています。でも、山が好きで、山を生業にするのなら、もう少し山の近くにお店を構えてしまいそうなもの。長島さんの中で、山と街のお店はどのようにつながっているのでしょう。

お店のプロフィールで「山の遊びと都会的な生活はどちらも大事」と提案する長島さんのお話には、お店を通じた独自の山の楽しみ方がありました。


長島知樹(ながしまともき)さん
大学卒業後、ファッション系の商社を経て独立。2012年に山のセレクトショップ「sokit」を桜台で開業した。2017年に現在の場所に移転。実店舗とECサイトで販売を行う。


「登るだけが山じゃない」

栗川:たとえば平日は仕事でサラリーマンをやっていて休みの日に趣味で山とか畑とか、切り分ける考え方が多いと思うんです。でも、都会も山も遊びもどっちも大事にしたいっていう、良い感じに融合されているなって。場所も場所ですし。
その辺りはどこから生まれたんですか。
長島:元々、僕が山岳部とか、山だけの文化から店をやりたいと思ったわけじゃないからだとは思いますね。ファッションとかが好き。それが今でも好きなので、こういうのを中心にやってるっていうのはあると思うんです。
ファッションにおいて、たぶん、山からはあまり生まれないんですよね(笑)東京なんですよ、日本だと。東京もしくは大阪、大都市圏から文化は出てくる気がするんですよ。僕が好きな文化というか、カルチャー的なものって。
どういうカルチャーが好きかにもよると思うんですけど、僕が好きなそういうのって、中心にいた方が感じやすいものなんですよね。

長島さんは「アメカジ」(アメリカン・カジュアル)が好きでファッション業界に就職したそう。
アメカジは、アウトドアのブランドとも親和性があるムーブメントでした。

栗川:アメカジ。カジュアルとか?
長島:たとえば文化的なものもそうですけど。「裏原」(裏原宿)とかそういうの、ご存知ですか?ムーブメントがあったりとか、そういうのって東京ですよね。山には山のブームがあると思うんですけど、そういうことではなくて。カルチャー的なものが。たとえばですけど、山も登るだけじゃなくて、見るのが好きな人もいれば、カクのが好きな人もいるわけじゃないですか。
栗川:カク?
長島:絵を描いたりとか、文章に書いたりとか。小説なり探検記なり、いろいろ文学的なものもありますけど。
栗川:鉄道みたいですね。撮り鉄あり、乗り鉄もいるし。
長島:まあそうですね(笑)。いろんな山があって、ミックスしたものがやりたかったんですけど、結局商売にならないのでこういう風になっちゃってますけど。今でこそ多いですけど、ギャラリー兼ショップみたいのだったりとか、文化的な、本を一緒に並べたりとか。
そういうのを全て含めて、山の方にだけいても吸収できないものがあるんじゃないかなと思うんですよね。それでどちらかというとそういう東京の雰囲気が好きなので、忘れない意味でも僕は山の方で店をやりたかったわけじゃないというか、東京でやりたかったんですよね。
矢吹:んー、それは初めて知りましたね。面白いじゃないですか。
長島:でも、そうじゃないですか?登るだけが山じゃないので。そこなんですよね。あと、スノボーとか、横乗りとかのカルチャーも東京だったり、それに関しては東京だけではないんですけど、なんだかんだ言って集まって来るのが東京なのかなっていう気はしてまして。

「山カルチャー」の一部

矢吹:そういうのって、価値観というか、人が集まったコミュニティからカルチャーが生まれるじゃないですか。そういう意味ではここも、似たような考えと感度の人がやっぱり来ると思うんですよね。それをコミュニティーとしてうまくオーガナイズしていくと、さっき言ってたカルチャーが、その中の人との融合で出て来る可能性があるのかなって。
長島:そうですね、確かに。
矢吹:今のお店のスタイルってお客さんと近いし、モノを売っておしまいっていう感じのお店じゃ全然ないと思うので、そういう意味でも可能性が。そういう感度の人たちが集まるコミュニテイがこの店をベースにできたら面白いなって、ふと思いましたね。
長島:それはめちゃめちゃ嬉しい。そういうのになれたら、できたらね。目指す形なのかもしれませんね。
栗川:たしかに、山の用品屋さんだけど、コアな感じがお店の中にもあって。なんというか、”山ガール”とか、山が好きって言って登っている人が持っている雰囲気や、持ち物の色、テイストだけじゃないような。
長島:そうですね。一応、山やってる人たちの中の一部の好きな人たち、っていう集まりが、ある程度は今はできている感じがして。その中の店の一つですね、うちも。
だから山をやっている人の中の、本当のある一部分。
矢吹:山をやっている人もいろんな種類の人がいるじゃないですか。
長島さんみたいな角度からある程度ミックスさせて、カルチャーというか感度もありつつ、そういう角度から山を楽しむっていう人は一定数いるんですか。
長島:いるとは思います。どんぐらいいるかって言うとあれですけど。
矢吹:山じゃなくっても良いと思うんですよね。周辺の人たちで山カルチャーを持った人たちが集まると面白いじゃないですか。
長島:もっとはっきりしてる文化を持った店も東京にはありますし。そういう風に考えている人は意外と多いのかなとは思うんですけど。単に登っているとか、流行っているからやっているってだけじゃない人もいると思いますし。
最終的に矢吹さんが言ってたみたいな店になれば嬉しいですけど。単純に僕が好きだからそうやっているって言うのが元々です。


時代や土地柄にセレクトされたブランド

矢吹:今取り扱っているブランドって本当に個性的っていうか、作家さん的。どうやって見つけてるの?
長島:結局そうなっちゃったっていうところなんですよね。
最初の頃は、まだ、”山ガール”とかって言っていた頃で、富士山とか全盛期に近かった頃なんですよ。それなので、一応上から下まで全部揃って提案ができるような店っていうふうに考えていたんですけど、結局それがうまくいかなかったというか。あんまり売れないものは売れなくて、試行錯誤してこうなっていったというか。
まあ、池袋・新宿で大体そういう大きいブランドは揃ってしまうんですよね。そういうのもあって、普通のものを売っても難しいなってことに途中で深く気がつきまして。
矢吹:深く!気がついちゃった!
長島:身銭を切りながら気づきまして(笑)
それもあって、より。「じゃあもう」って感じで、どんどんどんどんそういうのをやめていったっていうのが正しいですかね。最初からそうだったわけではないです。
矢吹:それは知らなかった。
長島:ご存知かもしれませんけど、最初はもうちょっとカジュアルものもやっていたんですよ、街着というか。facebookとか最初の頃に受けた取材とかには書いてあると思うんですけど、練馬の近所の方にも普通に使ってもらえる店でありたい。買ってもらえるものがあってもいいなって思ったんですけど。
結局そういうのも、なかなか難しくて。駅前にユニクロさんもできましたしね。だんだんだんだん減っていってしまったんです。今でこそ、靴下とか、ちょっとしたTシャツとか、帽子類とかは普通に兼用してもらえると思うんですけど。だいぶカジュアル系のアパレルは減らしちゃったんですよね。だから、前よりも服は多いんですけど、服以外の物のウェイトが増えているかもしれないですね。


栗川:選ばれて、適応してきたブランドたちっていうかグッズたちということなんですね。いまは一通り、上から下まで揃う感じなんですか?
長島:でも現状は、うちで上から下まで揃えるっていうのはオススメしてないんですよね(笑)。っていうのは、アクが強すぎて。続けるかわからない人に勧めて良いものではないというか。値段的にもどちらかというと高価格帯のものが多いんですよね。やって、好きになってくれたらこういうのもあるよっていう感じの提案を。
矢吹:控え目な(笑)
長島:だって、たとえばスキーとかスノーボードの三点セットじゃないですけど。モンベルさんとか量販店とか行ったらそれなりの金額で揃うものを、あえて最初から高額なものでっていうのも嫌だなって…。とりあえず、とっかかりとして始めるに当たって、そんな大した装備は僕はいらないと思ってるんですよね。
矢吹:そこらへんがフィロソフィーですよね。商売に対するその人の。長く続く関係をなんとなく望んでるっていうふうに聞こえた気がするんですよ。
長島:それは、そうですね。

お客さんは半数以上が区外からわざわざ来る人とのこと。
山やキャンプにお金をかけられる年齢(30歳以上)の人が自然と多くなるそうです。

「ご飯を食べて、好きなことができれば良い」

長島:会社を大きくしたいとか、いっぱいお金儲けしたいという感じじゃないんですよね。スモールビジネスで良くて。ご飯を食べて好きなことができれば良いっていう考え方なので、これは。
今はそれが安定してできるようにしたいっていうのがありますね。自分が好きなことをやれてて普通に生活できていればまあ、それで良いっていうのはあります。家族にストレスはかかるかもしれないですけど。
栗川:ご家族は、お店を一緒にやったりはしないんですか。
長島:今はしてないっすね。僕だけです。
栗川:仕入れとかから、ECも含めて、1人で?
長島:はい、全部。だから大変ですよね。何が大変って休めないです。
栗川:この前は展示会もされていましたよね。ECとかも、大変なんじゃないですか。
長島:ECが大変かっていうと、そこは完全にルーティンなんで、大変だったら外注すれば良い。そこはお金で解決できるところなんですけど、何が大変なんだろう。まとめて管理するのが大変というか。
何がやりたいのかっていうところなんですけど、自分が?
矢吹:え、なになに?深い。
長島:いや、じゃなくて、たとえばほら、発送。自分が仕入れたものがネットで売れればそれがやりたかったことなのかって言ったら、それってやりたかったことの何パーセントっていう話じゃないですか。
矢吹:おおー。


長島:お店でお客さんに実際に話して買ってもらうことと、売れてネットで送るのとどっちがウェイトとして大きいのかっていう話なんですけど。
あとは商品の仕入れだったりとか、いろいろあるじゃないですか。その中でウェイトが低いからと言って疎かにはできなくて、それがあるからこそ店でもできるっていうのがあって、だからいろいろ忙しいんですよね。それだけじゃないというか。
栗川:お客さんと対面の中で売りたい?
長島:あのー。そこすごく難しいんですけど。自分でもよくわからないです。
来てくれたお客さんが当然大事ですけど、だからってネットで買ってくれたお客さんが大事じゃなくないのは間違いないじゃないですか。買ってくれたことに変わりはないので。その辺は、どう…、難しいんですけど。
実感として、来てくれた人に販売すると、当然売った感はありますよね。やり甲斐があるだけで。でも実質…(苦笑)
栗川:売れたってことに変わりはないですよね。
長島:売れたってことに変わりはないし、買ってもらったってことに差はないので、お客さんは。
矢吹:やっぱりあれなんだ。コミュニケーションが取れるっていうことに、一定の価値を見出していると。
長島:そういうわけではないです。
矢吹:そういうわけではない(笑)
長島:僕もその辺はわからないです。両方大事なんです。仕入れの面に関してもどっちかだけではできないですし。うーん、販売も、当然店だけでは限界があるので、遠方の方にも購入してもらえるっていうのは大事だと思いますし。
矢吹:確かに立地的に言ったらみんな一緒ですもんね。うちもお店だけで成り立つかって言ったらそういうわけには…。限界があるわけだから。ECで広がる、数的に広がるっていうものは必要。両方ですよね。

いつか自分で店をやりたい。
就職する前から抱いていた思いを実現した長島さん。続ける中でチューニングされたブランドが、今日の個性派セレクトショップを、新しい山のカルチャーを作っていました。
ときにお店の形を変えながら、「sokit」を作り上げてきた長島さんとお話ししていると、私たちも新しいアイデアが浮かび、「今できる何かをやってみよう」というウズウズした気持ちが湧いてきました。
独自の文化は、やりたいと思うことを試行錯誤する中で生まれてくるのかもしれません。


Sokit

Website:Sokit公式ブログ
Website:Sokit公式HP
アクセス: 西武池袋線、都営大江戸線「練馬駅」より徒歩5分


取材・執筆・編集:矢吹東二、Tao、栗川開、あかね