2020/10/19
和風庭園で開かれるヨーガ教室が、練馬にあるのをご存知ですか?
今年8月末に惜しまれつつ閉園した「としまえん」の隣に、向山庭園という庭園があります。桜や紅葉をはじめ、季節を感じられるお庭は絶好のお散歩スポットです。
でも、ここで、たびたびヨーガの教室が開かれていることは、あまり知られていないでしょう。
土曜日18時からの「Equal YOGA」では、ヨーガのポーズであるアーサナと呼吸法を、1時間半かけてゆったりと練習していきます。講師のrieさんの案内を聴きながら姿勢をとるたびに、動き続けていた思考が落ち着き、自然と身体の力みが抜けていくのがわかります。
取材は9月。外では秋の虫の音が響いていました。
…だんだんと街の喧騒から離れ、気がつけば森の中にでもいるような静謐な気持ちになっていきます。
クラスの後、Equal YOGAの由来や、rieさんとヨーガとの関係について聞きました。
そこにはヨーガの本質と、それを実践していく奥深さがありました。
練馬区在住。ヨーガの探求をする中で、2013年にハタヨーガの教室「Equal YOGA(イコール ヨーガ)」を始める。
ヨーガを続けるうちに様々なスタイルと出会い、今では本場インドに勉強に行くほどヨーガを探求しているrieさん。まず、ヨーガの好きなところを尋ねました。
ヨーガって強制しないんですよね。ヨーガの教え。学びたいって思った人にはぜーんぶ広げて見せてくれるんです。
「こう、こう、こう」っていうだけなんですよ。「これがあります、はい、やんなさい」っていうことは決して言わない。だから自分がやろうとすれば、どこまでもいろんな扉がパカパカ開いちゃうんです。それをまたどんどんどんどん掘って勉強していくみたいな。
そういう意味で「来るもの拒まず」っていうのが、私はまず、ヨーガの度量の広いところで好きなところです。
あともう一個はね。大袈裟じゃなくてね。人生のガイドブックみたいなところを感じていますね。『地球の歩き方』ってあるでしょう、本で。一個の国のことを根掘り葉掘り。あれ持ってるとまあまあ安心じゃないですか。
人生のある局面に来たときに慌てふためいたりするんですよ、人間どうしても。葛藤したり挫折したり不安になったりストレスになったり。
でも、そのまま行ったら危ないことも、「ヨーガの教え、ヨーガの教え…」って思い出すと、「あ、こういう状態だからこうなんだ。こういうふうな見方をしたら変わるんだ」ってわかる。で、変わるんですよ。ああ、これはこういうことだったなって。
だからねえ、ほんと辞典かな。人生の辞典みたいな。そこが好きなところ。面白いです。
趣味でヨーガをしていても、そこから人に教えるという段階には、また一つ大きなステップがあるように思います。rieさんにはどんなきっかけがあったのでしょう。
そもそもrieさんがヨーガの世界に飛び込んだのは27歳の時。病気でお腹の手術をした後、身体が固まっていくのが嫌だったのだそう。「ヨーガしかない!」イメージだけで、藁をもすがる思いとともに教室をノックしました。
本格的に通ってみようって思ったのが何年か後だったんですけど、そこでしばらくずーっと練習をしてたんです。そうしたらわからなくなってくる時期っていうのがやって来たんですよね。「ヨーガって結局何なんだろう」って。
ただただ先生に言われて動いているだけではなくて、もう一歩深く勉強して、要は自分の中で理解をして動くようになりたいなって思うようなりました。それが多分、第一歩です。
もう一歩進むきっかけになったのが、私がずっと尊敬して付いていた先生が、そのスタジオから離れることになって。
まだまだ未熟な私は「その先生じゃなきゃ困る!」ってなっちゃったんですね。変な執着を持っちゃった。その時に、もうちょっと自分でよくよく勉強して、自分が自分の先生になれば、この先生じゃなきゃダメだって思わなくて済むようになるんだなって、色々考えてそういう思いに至ったんですね。自分の先生になるにはもっと猛勉強しなきゃいけない。で、先生になるためのお勉強っていうのをしました。
「教室を開きたい」という目標ではなく、rieさんが先生を目指したのは自分のヨーガを深めたいという切実さからでした。自分1人で練習できる体質になろうと勉強していると、「自分で理解し、深めるためには人に教えるのが一番早い」と言われます。
自信も何もなかったですけど、飛び込む思いですかね。「やってみよう」って思ったのが7、8年前なのだと思います。
その時はまさか、何も展望はなかったです。毎週土日が緊張で。「今週どうしようかなあ」とか。もちろん1人もいらっしゃらないときなんて何回もあったので。でも、そのときは「よし、チャンスだ」って思って、自分で、今でもあるけどああいうノートでですね。皆さんがいる体で、考えてきたメニューをスタジオ借りている時間ずっと言いながら、クラスをやる練習を続けて、っていうことをしていました。だから先のことは何も考えてなかった。
そのまま生徒さんが来なかったら、スタジオ代をただただ払うだけなので止めることだってあったかもしれないけど…。でもそうやって1人でやっているのを多分、(通りがかる人が)外からチラチラ見てるんですよね。
頭のおかしい奴が1人でやってんぞー、みたいな(笑)誰もいないのに大丈夫かなっていう感じ。そういう効果もあったのかな、わからないけど。ブログとかも見てくれる方がいるようになって、何となく続いたら今日この時間にいるっていう感じですね。
あんまり欲がなかったから良いのかもしれない。やったるぞーってなって、蓋開けて20人いることを夢見ていたとしたら、たぶん1年も経たないで止めていたと思うんですよね。
レッスンの1時間半やその前後、同じ時間と空間を共有しているrieさんと生徒の距離感は、近くもないし遠くもないものです。教室に通って数年になる花水木の会の矢吹が、そんな教室のあり方について話題を振ります。
矢吹:今日は生徒さん同士でもコミュニケーションがあったりするのかな。でも、たまーにそういうシーンを見る限りで、基本的にはみんな空間を共有しているぐらいな、そういう距離感でやってらっしゃる方が多いのかなっていう印象を受けていて。それが僕にとってはすごくやりやすいというか、心地良い。でも、同じところにいて同じことをしたいって思っている人たちをもうちょっとつなげても、それもまた面白いのかなって思ったりする。そこらへんはどう考えていらっしゃるんですか。
rie:はい。生徒さん同士がつながってくれたら良いなっていうのは思っています。だから余計な口を出さないっていうのも、実は。でも、もうちょっとみんなとコンタクトは取った方が良いんだろうっていうのは思ってるんですよね。ただ、目的が増えると良いなって思っているんです。つまり、日曜日の10時だからヨーガ行こうっていうのも良いんだけど、日曜日の10時だからヨーガ行こう、私のクラスだからヨーガ行こうって思ってくれたらさらに嬉しい。あの人もいるから、楽しいから行こうとかね。
私も練馬に住んでますけど、ここでやりたいのは、やっぱり地域に還元したいんですよね。還元って大したことはできないですし、別にボランティアでできるわけではないんですけど、せっかく自分が住んでいる地域だからやっぱり荒んでいたら嫌だなって(笑)。練馬は私が何かしなくても良い街ですけど、なんて言うんだろう。あの時間、あそこに行けばあの人たちがいる、みたいな時間でもあってほしいんですよね。そういう仕掛けっていうか、機能にこのイコールがなると良いなっていう、そこは割と強めに思っていますね。
矢吹:そうなんですね、それは意外。
rie:うん。だから他のエリアでやりたいって思わなきゃいけないのかもしれないけど、特に興味がないというか。練馬ではやりたい。そういう変な思い入れは地域にはあります。とにかく好きなんですよね、この辺が。
矢吹:向山庭園でヨーガやるっていうのが、それだけで完璧に楽しい。ここの場所は本当に良いですよね。
rie:そうそう、そういうモチベーションですよ~。ここの場所でやりたいとか、何だからやりたいとか。そういうコンテンツっていうのは自分のクラスの中に詰め込んでおくと、それを目当てにみんな集まって来てくれる。わかんないですよ、普段は辛い何かがあるかもしれないけど、少なくともここにいる1時間半はなんかリラックスできるなぁとかね。そういう空間を提供したいっていう思いはあるかな。だからヨーガを何が何でもみんなに伝えようと、そういう使命というよりは、今言ったようなことの方が私は割と興味がありますね。
終盤、「これ、ちょっと自発的に言わせてください」と、rieさんがヨーガの目的について教えてくれました。
ヨーガの目的、それは「もっとも高度なレベルでの人格の統合」なのだと言います。例えば、ポジティブに思い浮かんだことを行動として実践できたり、言っていることとやっていることに矛盾がなかったり、そんな肉体と心理、魂が一致している状態が調和であり、統合なのだそうです。肉体はもちろん、心や魂も健やかであることが重要です。そこには鍛錬が必要で、そのためのメソッドを教えてくれるのがヨーガ。
何より、そんな話をするrieさん自身から、ヨーガを実践する奥深さを感じたインタビューでした。
向山庭園の有機的な空間は、調和という言葉にぴったり。土曜日夕方のEqual YOGAで、身体と心を調えてみてはいかがですか。
メール:nobinobigaiine@gmail.com
アクセス:今回会場の向山庭園は西武豊島線、都営大江戸線「豊島園」駅から徒歩3~5分
スタジオメッセ(最寄りは豊島園駅)でもヨーガ教室を開催。日程等は公式ブログに掲載
Website:Equal YOGA公式ブログ
取材・執筆・編集:矢吹東二、栗川開、TAO、あかね