2023/11/04

23年版 ぼくらのための業界研究 その5

社会的企業のマネジメント

最後に社会的企業のマネジメントについて、2つ調査を見たいと思います。横山氏(2020)は株式会社形態で運営している日本の就労移行支援事業を対象に,制度ロジックの観点から調査しています。先行研究では社会的企業のマネジメ ントは極めて難しく,同型化圧力(DiMaggio and Powell 1983)やミッション・ドリフト(Cornforth 2014)にさらされうることが明らかになっています。社会性か経済性ロジックのどちらかに強く重きを置く場合,問題が生じる可能性が高くなるため,先行研究の多くが両ロジックのバランスをとるといった 適応を見せるか,イノベーションといった革新的方法 を採用するか,いずれにせよ組織的工夫が必要になってくることを述べています。調査から両ロジックのバランスをとる組織的工夫の仕方と組織的成果の関係性を明らかにしています。具体的には社会的成果について移行率と定着率,経済的成果については営業利益率で 3 社を比較しています。その結果、経済性ロジックが強い組織は経済的成果が大きいが社会的成果は小さく、逆に、社会的ロジックが強い組織は経済的成果は小さいが社会的成果は大きい。両立した組織は経済的と社会的成果がどちらも平均水準以上であった。このことから結果的に強く出ている制度ロ ジックと両立の工夫に向けたマネジメントのあり方 が,組織成果と密接に関連していると述べています。

そこで両立のための組織的工夫に注目します。Mair et al. (2015)は,組織的工夫をガバナンスの視点から3つに類型化しています。2 つの異なる制度ロジックに対して,セレクティブ・カップリング(注)を行うか,新しいガバナンス実践と組織プロセスやオペレーショナルな実践を発展させるイノベーティブな方向を志向するか, ロジック選択せずに複雑で曖昧な制度的領域を進んでいくかの3つの方向性があるとしている。具体的なセレクティブカプリングとして、たとえば、社会性を担保するための支援力向上を目指して,新しい役職である ソーシャルワーク・アドバイザー を設置しています。また全国に散らばった事業所での支援に関する実践報告会を開催して,ベストプラクティスの共有と問題解決力の向 上につなげている。つまりオペレーションにおいて, 両ロジックをつなぐ組織的な取り組みが導入されていました。

もう一つは、新しいガバナンス実践と組織プロセスの可能性です。桜井氏(2020)はカナダ・オンタリオ州の3つの社会的企業を調査しています。3ついずれもの社会的企業で親組織のもとに子組織として新たな社会的企業が生み出され、支援を受けたり逆に親組織の収入源になったりと深い関係性を有しています。収入の点は、政府からの補助金や委託、商品やサービス収入、ファンドレイジングの3つが色々な割合で構成されているが、組織ごとに一つ主要な財源がある。つまり収入の柱が明確に存在することで経済的安定を作り出していると指摘しています。さらに子組織の地域事業のみでは獲得しずらい地域外資源を調達できる組織キャパシティをもたらしていると指摘しています。

ネイバーフッドハウスを運営するクリスティ・オジントン・ネイバーフッドセンター(CONC)は、5歳から12歳の親子に無料の放課後支援としておやつの提供、芸術、レクレーション、社会的リテラシー教育や低価格のサマーキャンプを提供する親子向け支援プログラムがある。ドロップインと食事のプログラムでは、誰でも気軽に立ち寄れて自由に使えるスペースの提供、ホームレスや移民への食事やシャワー、娯楽や無料の相談を提供する。LoFTという別組織で若者支援プログラムを立ち上げている。芸術活動を一つの軸において音楽やデザインなどに取り組める場所と機材を無料で貸し出し、自己実現やキャリアアップの機会を提供する。また若者の就労の場としてケータリングやカフェ事業を始めた。収入は政府からが90%を占め、寄付7%と事業収入は0.1%となる。
STOPコミュニティフードセンターは、健康づくりのためのプログラムを3拠点で提供している。食事を無料で取れるドロップインと寄付で集められた食料を自由に持ち帰ることのできるフードバンクを行っている。他に健康的な食材の販売や、コミュニティキッチンと呼ぶ男性向けの料理教室、妊婦向けの栄養教室など、食と栄養に特色づけた地域住民向けのプログラムを提供している。同時にサポートネットワークの構築と啓発するコミュニティアクションプログラムを提供する。ウィッチウッド・バーンズ公園の拠点では、ファーマーズマーケットを運営している。中間階層向けに新鮮、健康的な野菜、果物、肉や乳製品を供給すると同時に人々が知り合うコミュニティの場を提供する。収入は寄付が82%を占め、政府補助が10%と事業収入は2%となる。
ラーニングエンリッチメント財団は保育プログラムをメインにしている。利用する人はシングルペアレントが50%を占め、22%の子供が障害を持っている。他に雇用訓練とインターシップのプログラムを提供し、ケータリングと自転車修理と園芸の事業を行っている。これらは貧困層の雇用訓練と就労を焦点に設立された。収入はサービス対価が63%で政府から29%、寄付1%となっている。ここでもサービスの提供だけでなくサポートネットワークの構築と啓発、政治的活動などコミュニティーオーガナイジングが合わせて取り組まれている。
ハイブリット性の側面からは、親組織と子の関係はハイブリット性の補完性を持っていると考えられます。子組織が新たな事業の行動を取ることで、親組織に新たなハイブリット性(相互扶助、互酬性)を加える機能をしている。同時に経済的ロジックの面で親組織が子組織を支え(連携による経営基盤の強化)ていると捉えられます。

セレクティブカップリング(注)それぞれの制度ロジック から引き出された有効な要素を選択的に組み合わせる セレクティブ・カップリング
桜井氏(2020) 福祉NPO・社会的企業の経済社会学 明石書房 2020  p246