2023/11/04
23年版 ぼくらのための業界研究 その4
社会福祉法人の経緯と地域公益活動
ここで少し社会福祉法人に触れたいと思います。理由は、雇用と支援や営利と非営利が接近している今の流れを改めて整理すると、それが社会的企業への動態化とすれば、その活動フィールドの次元には横軸に共益性と公益性、縦軸に事業性の高低という二つの軸が見出されてます。実際、これを別の言葉で言ったのが社協の社会福祉法人ビジジョンです。地域住民のニーズの増幅を受け、制度内サービス の運用の幅を広げることと、制度外ニーズへの対応という二つを軸にまとめています。(注1)少し大袈裟に言えば、アイデンティティの再定義と言えそうです。
国家には生活保障の義務があるという憲法25条則り社会福祉事業を 担う責務と本来的な運営主体を行政としながら、所轄庁の指導監督を受けながら事業を展開してきたのが社会福祉法人です。地域の セ ー フ テ ィ ネ ッ トとして 一定の 公共的役割を果たしてきており、これまで主要なサービス供給主体になってきました。(牧野2017) 2019(令和元)年度末時点の社会福祉法人数は 20,933 法人で,前年度に比べ 61 法人(0.3%) 増加しています。設立経過年数別では40年が一番多く、サービス活動収益別では1ー2億未満が一番多く、設立時から規模が変わらずに長らく小規模を維持する事業者が多くを占めます。(WAMNET2018)その多くは一法人一施設型です。その他は母体や規模によって内容が多様化し経営タイプが分かれます。養護老人ホームが介護保険事業として特別養護老人ホームなどを経営するなど一法人複合施設型,さらに有料老人ホーム, 配食サービス,認定こども園等を運営するなど一法人他業種型があります。(大澤2020)これまで、社会福祉法人制度に影響を与えたのが、サービス提供主体の多元化や措置制度から契約制度への転換がされた2000年社会福祉基礎構造改革と社会福祉法改正、そして公益性・非営利性の徹底の視点からガバナンスの強化と地域社会への貢献が広がった2016年の法人制度改革です。ここではそれ以前の社会福祉法人の歴史的展開を簡単に振り返ります。
戦後まもなく昭和 26(1951)年の社会福祉事業法による「措置制度」の福祉サービスの 受け皿の機能を果たしてきた社会福祉法人です。1950年 「社会保障制度に関する勧告」の な か で,民 間社会事業に対し て ,「特別法人制 度の 確立 によりその 組織的発展を図 り、公共性を高めることによって ,国および地方公共団体が行う事業と一体となって活動しうるよう適当な措置をとる必要がある」 との勧告を受け,その特性を活かすための措置として特別法人として創設されました。具体的には、国家には生活保障の義務があるという憲法25条に則り社会福祉事業を担う責務を本来的な運営主体を行政としながら、事業の実施を民間 に委ねることとした。そして、事業の公益性を担保する方策として、行政機関が福祉サービスの対象者と内容を決定し、それに基づき事業を実施する仕組みとして措置制度が作られました。その際「公が慈善博愛事業を行う団体に国が補助金を供与してはならない」 という憲法第89条の公私分離の規定は大きな壁でした。そこで特別公益法人としての「社会福祉法人制度」を創設し、多くの社会事業組織に社会福祉法人を取得させて、「公の支配」が踏襲される形体にし、公金の支出(措置委託制度)を可能としました。社会福祉法人は所轄庁の指導監督を受けながら事業を展開してきました。(牧野2017、芝田2014)
こうした経緯から求められた公共性に着目すれば,措置委託制度を通して地域 のセーフティネットとして一定の公共的役割を果たしてきました。他方,民聞事業者としての先駆性や自主性については ,政府による「規制 と助成」のなかで民間性を失い,自らの役割を公的福祉の代行という下請け的な範囲にとどまらせ るに至ったという批判もあります。(村田2010)これからの社会福祉法人の経営について、全社協福祉ビジョン2011は、地域住民のニーズの増幅を受け、制度内サービス の運用の幅を広げることと、制度外ニーズへの対応という二つを軸にまとめています。前者は「柔軟に対応できる制度内の福祉サービスの強化確立」とされ「新たな福祉課題・生活課題についても柔軟な運用により解決」を図るものと述べています。後者は「制度で対応しにくいニーズに応える福祉サービス・活動の積極的展開」であり、「専門職のみでは解決しないニーズ」を「住民・ボランティアや他の組織と連携」し、各々の持つ専門性、拠点、ネットワーク等の資源を活かして対応することが示されています。こうしたことの一つの形として2022年 に社会福祉法人を中核とする社会福祉連携推進法人制度が創設されました。措置から契約や基礎構造改革で生じた一法人複数施設化や一法人他業種化は、あくまで利用契約に基づいた福祉事業でしたが、これからは契約のない地域住民の生活課題の解決、地域公益活動を含む展開が期待されています。明らかにアンバランスな変化に見えますが、この流れを理解し組織の置かれている環境に応じて柔軟に方向性を見直す努力が必要となります。(注2)
(注1)地域公益活動(公益事業を含む)に関わる議論の対象範囲は、自前のサービ スとの関係で「制度内の実施-制度外の実施」という比較軸と、「(契約した)利用者に対する支援-(利用者ではない)地域住民に対する支援」という比較軸に分類できる。第1象限は、利用者に対する制度サービスの提供、第2象限は、対住民に対する制度サービスの提供、第3象限は対利用者の制度外サービスの提供、象限4が対住民の制度外サービスの提供と捉えられる。このなかで第2象限が社会福祉法の公益事業の定義になる。加山2020
(注2)地域公益活動とは、施設がもつ有形無形の経営資源によって,施設利用者に還元するのみならず地域の課題の発 見・解決に資するという取り組み。それ自体は歴史が長く,1970年代の「施設社会化」に対して今日的な動向を「第二の施設社会化論」と 捉え、岡本榮一 はその機能を〈なぎさ〉という概念で説明している。〈なぎさ〉とは、さまざまな人々が出会い、 語り、多様性を創造する空間・活動だとされ、市民の主体的な参加によって生まれる「新しい公共」、 孤独・孤立といった課題に向き合う「つながり」の再構築等の契機が内在するとしている。社会福祉法人の行う事業としては,社会福祉事業を行うことができる他,必要に応じ公益 事業又は収益事業を行うことができる,としている。(厚生労働省,「社会福祉法人の認可に ついて」平成 28 年 11 月 11 日,局長通知。一部抜粋)。公益事業と収益事業は補助金や受託事業収入以外の自主事業収入に該当する。公益事業については,具体的な例として,以下のような事業 を挙げている。ア. 相談,情報提供・助言,行政や福祉・保健・医療サービス事業者等との連絡調整を行う等の事業。イ. 入浴,排せつ,食事,外出時の移動,コミュニケーション,スポーツ・文化的活動, 就労,住環境の調整等(以下「入浴等」という。)を支援する事業。ウ. 入浴等の支援が必要な者,独力では住居の確保が困難な者等に対し,住居を提供又は 確保する事業。エ. 日常生活を営むのに支障がある状態の軽減又は悪化の防止に関する事業 。オ. 入所施設からの退院・退所を支援する事業 。カ. 子育て支援に関する事業。キ. 福祉用具その他の用具又は機器及び住環境に関する情報の収集・整理・提供に関する 事業。ク. ボランティアの育成に関する事業。 ケ. 社会福祉の増進に資する人材の育成・確保に関する事業。(社会福祉士・介護福祉士・ 精神保健福祉士・保育士・コミュニケーション支援者等の養成事業等) コ. 社会福祉に関する調査研究等
牧野2017 社会福祉法人制度改革と今後の社会福祉法人経営
大澤2020 わが国の市民活動における非営利組織の現状と課題
芝田2014 社会福祉法人制度の意義や役割の変遷と今求められる機能
村田2010 福祉市場化における社会福祉法人経営