2023/11/04

23年版 ぼくらのための業界研究 その3

労働統合型社会的企業(WISE)研究と類型化

社会的包摂の有効な手がかりとして積極的労働市場政策の有効性が指摘されるなか(宮本 2009),社会福祉学や社会政策学の研究者による就労支援に取り組む事業体の研究が進められるようになりました。営利を目的としないこれらの事業体は,労働統合型社会的企業(Work Integration Social Enterprise: WISE)と呼ばれ,欧米諸国で研究対象として近年注目されてきた。積極的労働市場政策の整備が進む日本においても,WISE の活動についての関心が集まっている(藤井他編 2013)。欧州では 社会的排除の解消に向けた社会政策の転換とい う文脈で社会的企業(注1)が注目されるのに対して、 アメリカでは財政削減を背景とした NPO の事業化という意味で社会的企業が注目されるよう になった。このため二つは別々の文脈で研究が発展しています。欧州において、社会的企業研究を主導する研究 ネットワークに EMESがあるが、EMES はサー ドセクターの開放的・混合的・多元的・媒介的性格を強調する。つまり政治、経済、社会の要素が組織の中 で混合(ハイブリット)しています。
国内では、藤井氏(2013)は日本のWISEの代表例としての, 労働者協同組合とワーカーズコレクティブを対象にしています。社会的企業は政府、市場、市民社会の媒介領域に位置し、多元的な資源・目標・ 運営メカニズム・組織文化等が入り組んだ組織 であることを指摘しています。

米澤氏(2009)は障害者就労事業所を対象にして組織内部での政府や市場、コミュニティの資源を混合する性質があり、それが事業の継続および社会的排除の解消に貢献していることを明らかにしています。具体的には、健常者と障害者が同じ立場で働きながら、事業体として効率性を追求することで、高い割合で市場からの収入を獲得しつつ、日々の運営や 設備への投資を行うために行政からの補助金を確保し、反能力主義を徹底することで障害者へ も最低賃金を保障しながら活動する共同連を事例として、補助金収入など政府からの再分配と事業収入などの経済領域からの市場交換、社会関係資本の互酬の要素が組み合わされる結節点としての機能を指摘します。

二人の分析対象が違うことからも分かる通り、WISEもソーシャルビジネスと同様にいろいろな組織形態や法人格が含まれていて対象特定の困難さの問題を抱えています。(注2)これに対して米澤氏はこれまでのように非営利組織を経済性と社会性といった二項対立に落とし込むのではなく、社会性として一つにまとめれらえるものの多元性を制度ロジック(注3)の視点から支援型と連帯型に類型化します。両者では異なる価値基準が存在していることを示しています。具体的には、支援型で市場ロジック(経済性)と共存している社会性は専門職のロジックです。専門職が就労支援の中で当事者を適切に支援し、適切に当事者の声を聞きとることが目指され、それによって個人差や程度の差はあろうとも生産活動への包摂を試みます。一方、連帯型の社会性は民主主義のロジックです。これは支援という関係性に反発し専門職による支援に抵抗感を示し、望ましい生産を行う際には当事者間の運営参加を重視する考え方です。つまり、支援型は中間的就労における就業と伴走型支援を組み合わせ、段階的な就労の場を設け、相談支援を組み合わせることにより一般就労へと結びつけるものです。これに対して連帯型は就労の捉え方とそれによる社会的包摂の目指す方向性の違いが認められます。共に働き、対等に事業を運営することや、たくさん働ける者もそうでない者も仲間として交じり合いながら一緒に働き、仕事に障害者を合わせるのではなく、障害者に仕事を合わせるといった働き方のアプローチを取ります。そして、収益は対等平等に分配する反能力主義的で、支援によって能力を伸長する中間的就労の目指す方向性とは対照をなしています(米澤2017 )

連帯型のモデルは社会的事業所ですが、その前身は90年代前半、共同練という障害者運動のネットワークから形成された共同事業所にあります。特徴はある程度自立した経済的な事業体としての性格と働き方にかかわる健常者と障害者の対等性の二つの性格がある。前者は小規模作業所が後者は一般企業と対比的になっている。2000年以降、共同事業所に代えて社会的事業所という組織形態を強調するようになる。違いは障害者以外の就労困難者も対象に含む点にあります。複数の背景を持つ従業者が異なる性格に意義を見出して就業に関わりながら、同じ生産活動に携わるという点に特徴があります。しかし同時に低賃金問題や技能蓄積の不全を引き起こしている側面があります。
支援型のモデルの生活クラブ風の村は、ユニバーサル就労の枠組みで障害者やひとり親、就労経験の乏しい若者などに内部支援と外部支援の二重に手厚い支援をしながら、段階的に就業のステップを踏む。労働時間を見ると30時間以上勤務している人は1割程度で、多くは20時間以下になっている。運営は生活科学運営と生活クラブ生協千葉と他専門団体とも連携しながらユニバーサル就労ネットワークちばが運営する。組織内の資源配分の点から特徴的なのは、人件費負担の仕組みが雇用と非雇用の間で異なること。非雇用の場合、人件費負担は法人全体の積立金から支給される。つまり人件費を含めたユニバーサル就労にかかる経費は個別の事業所では負担がなされず法人全体で積み立てる地域福祉支援積立金より支払われます。

米澤氏は支援型の効果と限界について次のように述べています。まず就労機会の提供が生活全体の改善に貢献している点を挙げます。具体的には技能や挨拶が習得されることや継続性や自信がつけられます。一方で対象者によって課題やステップアップの進度にばらつきがあり所得保障に限界がある。そして、運営の論理として福祉ロジック(専門職ロジック)と市場ロジック(経済性)が共存するなかで、当事者の処遇に影響することが挙げられる。つまり個々の組織レベルの混合の違いによって左右される側面がある。(注4)一方、連帯型の効果と限界は、反能力主義的な考え方による働きやすさ、具体的には自律的な労働スタイルや仕事のやりがい、あるいは柔軟で負荷の弱い働き方が効果として挙げられる。同時に組織レベルでの生産性とどのように両立させるかが一つの課題になる。(注5)組織の持続可能性を高める市場ロジックと従業員の必要充足する民主主義ロジックの間のコンフリクトがあり、その結果、低賃金問題が生じます。

最後に、二つの共通点として、いずれの類型においても生活に足るだけの収入は就労によってのみでは得られないことを指摘する。専門職ロジックと民主主義ロジックは市場ロジックを緩和する機能を果たしているが、それゆえに就労だけで生計の保障を行うことは難しい。社会的企業による就労機会の提供は、所得保障政策と代替的関係にあるのではなく補完的関係にあると指摘します。その延長線上で、就労支援のみならず生活、居住単体では成し遂げられず伴走型支援が重要になる。そこでの焦点は連帯による包摂的な地域コミュニティを形成すること、そして市場経済だけには置き換えれない人々の支え合いを基盤にした経済を作り出すことと述べています。こうした互酬性と再配分を重要な柱とする多元的経済を地域を基盤に作っていこうとする考え方は、社会的連帯経済のコンセプトと同じ言えます。

(注1)EMESは社会的企業は,政府・市場・コミュ ニティ(市民社会)の三極の媒介領域に位置すると認 識されてきているという。そして,社会的企業の組織構造は,①多元的目標(社会的目的と事業上の経済的 目的),②マルチ・ステークホルダーの参加(多様な 利害関係者が,民主的な意思決定プロセスに参加する ガバナンス構造),③多元的経済(資源構成として市 場,再分配,互酬性を継続的に混合する。とりわけ互 酬性としてのソーシャル・キャピタルを重視する)に よって特徴付けられているとしている。
(注2)内閣府による委託調査「我が国における社会的企業の活動規模に関する調査報告書」(2015)8によると、調査にあたって社会的企業の条件を、以下の 7 つを全て満たすものとしている。①「ビジネスを通じた社会的課題の解決・改善」に取り組んでいる ②事業の主目的は、利益の追求ではなく、社会課題の解決である ③利益は出資や株主への配当ではなく、主として事業に再投資する(営利法人のみ) ④利潤のうち出資者・株主に配当される割合が 50% 以下である(営利法人のみ) ⑤事業収益の合計は収益全体の 50%以上である。 ⑥事業収益のうち公的保険(医療・介護等)からの収益は 50% 以下である。 ⑦ 事業収益(補助金・会費・寄付以外の収益)のうち行政からの委託事業収益は 50% 以下 である
(注3)制度ロジック ThornsonとOcasio (1999)によれば、制度ロジックは「様々な制度的あるいは社会的セクターで普及している文化的言説と具体的実践を基に した,組織と行為についての主軸となる原理」として定義され(Thornton, 2004, p.2),組織にお けるパワーや構造,プロセスは環境における高次の制度ロジックによって決定される(Thornton and Ocasio, 1999)と論じられている。 新制度派組織論では組織は環境から正当性を調達することによって存続が可能となる、同時に業界内での組織間のネットワークが緊密化するにつれて,強制的, 規範的,模倣的などの制度的圧力が増大し組織同型化が生じる、組織フィールドの構造化が制度的同型化を引き起こす。これを埋め込まれたエージェンシーのパラドックスとされ制度の変化をどのように説明することができるかが問われる。これに対してDiMaggio は自らの利害を実現するために新たな組織形態や実 践を創造し変革していく組織化された行為者,「制度的企業家」(institutional entrepreneurs)の活 動に焦点を当てるべきだと主張した(DiMaggio, 1988)こうした組織フィールドの多様性を特徴づけ,そこに関与する行為者の解釈枠組みの競合を分析するために,しばしば利用される概念装置が「制度ロジック」(institutional logics)である。こ の概念を提唱した Friedland and Alford (1991)によれば,資本主義,民主主義,国家,家族など の現代社会の制度的秩序の各々は,その構成原理となる中心的なロジックを持っている。
(注4)サービス生産組織では その構成要素のシステム的関連性が強い。組織内のさまざま な価値システムとりわけ企業理念が大きな影響 力を持つ。組織を構成する各要素のシステム的関連性が製造業企業などに比べて高い。(近藤1997)
(注5)福祉施設の支援の質を評価するには、ヘルスケアの質の評価モデルとして最も ポピュラーなドナベディアンモデル(Donabedian 1980=2007)のStructure(構 造)・Process(過程)・Outcome(成果)の3つの枠組みによる考え方をベース に検討することができる。これによると、わが国のこれまでの福祉サービス第三者評価を含む福祉施設の評価は、職員や組織体制や建物などの環境について評価 するストラクチャ評価、そして支援を行う手順やその過程について評価するプロ セス評価が中心であった。現行の評価制度はOutcome(成果)においては、使用されている評価指標がStructure(構造)、Process(過程) に比べ少なかったが、主に「機能の効果」、「利用者の気持ち」、「総合評価」に関する指標に分類された。しかし、これら のアウトカム評価項目の多くは、Process(過程)に対するOutcome(成果)、あるいは「支援」 に対する「効果」を測定する指標として、両者の間に因果関係がある測定による「利用者アウト カム」とは言えないものであった。支援内容や支援過程とのつながりがない、総合的あるいは全体的な結果を評価するアウトカム評価であった。アウトカム評価指標として以下の4点の要件を満たすことが重要である。 ① 支援と利用者の効果の関係によるアウトカムを測定する ② 支援の効果は、支援の介入前後の2時点の変化によって測定される(支援の介入効果) ③ 効果は利用者による主観的評価と、個人の見方・感じ方に左右されずに事実を計量的に評価する客観的評価の両方をもって測定する(効果の主観的評価と客観的評価)④ 福祉施設ごとの種別特性をふまえた評価指標である 。以上4点の要件をふまえた具体的なアウトカム評価指標について、ICFの機能項目を踏まえて 検討していくことが今後の方向性と述べている。重田2021 
藤井他編著(2013)闘う社会的企業 勁草書房2013
米澤2017 P186.193.194.196