おわりに

さて、少し遠回りした気もしますがまとめです。業界の動向に国のアクティベーション戦略が影響を与えています。2000年代に積極的労働市場政策が導入され、2010年以降は対象者や制度のカテゴリーを横断する政策となってきています。就労支援事業は2006年施行の障害者自立支援法で就労継続B型(雇用契約なし),同A型(雇用契約型),就労移行支援の三種の事業所に区分されました。さらに2016年発効の改正障害者雇用促進法では,雇用における差別禁止や合理的配慮が義務付けられました。こうした動きは雇用と支援が接近しつつあると言えます。

就労支援市場において就労系は移行、A型、定着の3サービスで営利組織が60%程のシェアを占めています。営利の事業の特徴のひとつは、企業と利用者をつなぐスキームを組んだサービスです。つまり雇用と支援の連携をテコにしています。同時に企業と補完的関係にあります。こうした組織の多くはソーシャルベンチャー(SV)と呼ばれる組織です。ソーシャルビジネスとは「社会性」「事業性」「革新性」の三つを備えたものと定義されます。SVの存在感が増す背景には営利は社会貢献が求められ、非営利には事業としての自己完結性が要請される流れが定着しつつあります。言い換えれば、営利と非営利は接近しています。

積極的労働市場政策の整備が進む日本においても,欧州の労働統合型社会的企業(WISE )の活動についての関心が集まっています。障害者就労事業所を分析対象にした米澤氏(2009)は共同連を事例として、補助金収入など政府からの再分配と事業収入などの経済領域からの市場交換、社会関係資本の互酬の要素が組み合わされる結節点としての機能を指摘します。米澤氏は、制度ロジックの視点から支援型と連帯型に類型化し分析しています。そして両者では異なる価値基準が存在していることを明らかにしています。支援型は中間的就労における就業と伴走型支援を組み合わせ一般就労へと結びつけます。これに対して連帯型は共に働く仲間として当事者間の運営参加を重視し、連帯と反能力主義的です。就労の捉え方とそれによる社会的包摂の目指す方向性の違いが認められます。一方、両者に共通する点として、生活に足るだけの収入は就労によってのみでは得られないことを指摘します。なぜなら専門職ロジックと民主主義ロジックは市場ロジックを緩和する機能を果たしていて、それゆえに就労だけで生計の保障を行うことは難しく、社会的企業による就労機会の提供は所得保障政策と代替的関係にあるのではなく補完的関係にあると述べています。

就労支援事業を行う社会的企業を対象にした非営利組織や社会政策領域の先行研究に共通しているのは、組織あるいはセクターを区分する境界線が可変的という点です。セクターに基づいた一元的な原理によって組織を区分することは難しくなりつつあり、組織内部に複数の論理が共存するハイブリット性のなかで福祉の生産が行われることが示されています。支援の多様性はそのハイブリット(混合)の程度によって生じると考えられています。つまり複数の運営メカニズムの重なり合う部分の組織レベルでの違いは対象者への支援に左右します。

欧州サードセクター論の代表的研究者のエバース氏(2007)によれば、それは同時に、組織の多元的な役割や目標を反映して他とは異なる新しいコーポレートアイデンティティの確立につながりえます。エバース氏はサードセクターについて、多元的経済構造の内部に埋め込まれ、市場、再分配、互酬という3つの原理のトライアングルゾーンにサードセクター経済を位置付けて、3つの経済原理のハイブリット化と表現しています。その混合原理が経済原理としてあり得る点において、経済のあり方を改革する経済として位置付けます。その担い手が社会的企業としています。社会的企業を既存のサードセクター組織を変形していく動態的な過程として把握します。
これに類似した考えとして、藤井氏(2020.P42)は近年イタリアや英国で発展しているコミュニティ協同組合は組合員の閉鎖的な利益を志向する共益型の社会的経済と多様なNPOを含みこむ連帯経済の中間に、地域に密着し公益性を志向するマルチステークホルダー型の協同組合の領域が広がることで社会的経済と連帯経済が接合しやすい状況が生まれていると述べています。その中間の経済として広がりつつある社会的連帯経済という概念を次のように説明します。連帯経済にとって社会的経済が資金調達を含む経営基盤を強化させる重要な連携相手となり、一方、市場から会社化のプレッシャーを受け続けてきた社会的経済にとっては連帯経済との連携が言わば再相互扶助化として機能する。両者の接近の中から社会的連帯経済という言葉が選択されるようになってきた。これを公益性と共益性、それと事業性の高低という二つの次元で整理して社会的企業を位置付けています。

社会的企業のハイブリット機能は、結果的に強く出ている制度ロジックと両立の工夫に向けたマネジメントのあり方 が組織成果と密接に関連しています。そのため両ロジックを両立させる組織的工夫が成果に影響します。(横山2020)組織的工夫は3つの類型があります。(Mair et al.2015 )そのうちの一つは、新しいガバナンス実践と組織プロセスやオペレーショナルな実践を発展させるイノベーティブな方向を志向すること。カナダ・オンタリオ州のケースからは、親組織と子組織の関係は、子組織を通して地域課題の解決と組織の成長を両立すると同時にハイブリット機能を拡大していると捉えられる気がします。
就労支援事業は段階的就労の場と相談支援を組み合わせて一般就労へつなげる制度的な後押しのなかで、雇用と支援の接近が進展していくと予想されます。つまり雇用側企業と支援側組織は補完的関係性を増していくと考えられます。他方、連帯型の就労支援では対象範囲の拡大が進展していくことが予想されます。フォーカスされてきたのは市場交換だけでなく互酬性や再配分をハイブリットしたオルタナティブな経済を地域を基盤に作っていくことでした。新たな事業展開の条件は今後の経営モデル研究が待たれるところです。ひとつの仮は新しガバナンスと組織プロセスを持った子組織が考えられそうです。ではまた!
 
エバース編 欧州サードセクター 日本経済評論社 2007 p339

社会的企業のマネジメント

最後に社会的企業のマネジメントについて、2つ調査を見たいと思います。横山氏(2020)は株式会社形態で運営している日本の就労移行支援事業を対象に,制度ロジックの観点から調査しています。先行研究では社会的企業のマネジメ ントは極めて難しく,同型化圧力(DiMaggio and Powell 1983)やミッション・ドリフト(Cornforth 2014)にさらされうることが明らかになっています。社会性か経済性ロジックのどちらかに強く重きを置く場合,問題が生じる可能性が高くなるため,先行研究の多くが両ロジックのバランスをとるといった 適応を見せるか,イノベーションといった革新的方法 を採用するか,いずれにせよ組織的工夫が必要になってくることを述べています。調査から両ロジックのバランスをとる組織的工夫の仕方と組織的成果の関係性を明らかにしています。具体的には社会的成果について移行率と定着率,経済的成果については営業利益率で 3 社を比較しています。その結果、経済性ロジックが強い組織は経済的成果が大きいが社会的成果は小さく、逆に、社会的ロジックが強い組織は経済的成果は小さいが社会的成果は大きい。両立した組織は経済的と社会的成果がどちらも平均水準以上であった。このことから結果的に強く出ている制度ロ ジックと両立の工夫に向けたマネジメントのあり方 が,組織成果と密接に関連していると述べています。

そこで両立のための組織的工夫に注目します。Mair et al. (2015)は,組織的工夫をガバナンスの視点から3つに類型化しています。2 つの異なる制度ロジックに対して,セレクティブ・カップリング(注)を行うか,新しいガバナンス実践と組織プロセスやオペレーショナルな実践を発展させるイノベーティブな方向を志向するか, ロジック選択せずに複雑で曖昧な制度的領域を進んでいくかの3つの方向性があるとしている。具体的なセレクティブカプリングとして、たとえば、社会性を担保するための支援力向上を目指して,新しい役職である ソーシャルワーク・アドバイザー を設置しています。また全国に散らばった事業所での支援に関する実践報告会を開催して,ベストプラクティスの共有と問題解決力の向 上につなげている。つまりオペレーションにおいて, 両ロジックをつなぐ組織的な取り組みが導入されていました。

もう一つは、新しいガバナンス実践と組織プロセスの可能性です。桜井氏(2020)はカナダ・オンタリオ州の3つの社会的企業を調査しています。3ついずれもの社会的企業で親組織のもとに子組織として新たな社会的企業が生み出され、支援を受けたり逆に親組織の収入源になったりと深い関係性を有しています。収入の点は、政府からの補助金や委託、商品やサービス収入、ファンドレイジングの3つが色々な割合で構成されているが、組織ごとに一つ主要な財源がある。つまり収入の柱が明確に存在することで経済的安定を作り出していると指摘しています。さらに子組織の地域事業のみでは獲得しずらい地域外資源を調達できる組織キャパシティをもたらしていると指摘しています。

ネイバーフッドハウスを運営するクリスティ・オジントン・ネイバーフッドセンター(CONC)は、5歳から12歳の親子に無料の放課後支援としておやつの提供、芸術、レクレーション、社会的リテラシー教育や低価格のサマーキャンプを提供する親子向け支援プログラムがある。ドロップインと食事のプログラムでは、誰でも気軽に立ち寄れて自由に使えるスペースの提供、ホームレスや移民への食事やシャワー、娯楽や無料の相談を提供する。LoFTという別組織で若者支援プログラムを立ち上げている。芸術活動を一つの軸において音楽やデザインなどに取り組める場所と機材を無料で貸し出し、自己実現やキャリアアップの機会を提供する。また若者の就労の場としてケータリングやカフェ事業を始めた。収入は政府からが90%を占め、寄付7%と事業収入は0.1%となる。
STOPコミュニティフードセンターは、健康づくりのためのプログラムを3拠点で提供している。食事を無料で取れるドロップインと寄付で集められた食料を自由に持ち帰ることのできるフードバンクを行っている。他に健康的な食材の販売や、コミュニティキッチンと呼ぶ男性向けの料理教室、妊婦向けの栄養教室など、食と栄養に特色づけた地域住民向けのプログラムを提供している。同時にサポートネットワークの構築と啓発するコミュニティアクションプログラムを提供する。ウィッチウッド・バーンズ公園の拠点では、ファーマーズマーケットを運営している。中間階層向けに新鮮、健康的な野菜、果物、肉や乳製品を供給すると同時に人々が知り合うコミュニティの場を提供する。収入は寄付が82%を占め、政府補助が10%と事業収入は2%となる。
ラーニングエンリッチメント財団は保育プログラムをメインにしている。利用する人はシングルペアレントが50%を占め、22%の子供が障害を持っている。他に雇用訓練とインターシップのプログラムを提供し、ケータリングと自転車修理と園芸の事業を行っている。これらは貧困層の雇用訓練と就労を焦点に設立された。収入はサービス対価が63%で政府から29%、寄付1%となっている。ここでもサービスの提供だけでなくサポートネットワークの構築と啓発、政治的活動などコミュニティーオーガナイジングが合わせて取り組まれている。
ハイブリット性の側面からは、親組織と子の関係はハイブリット性の補完性を持っていると考えられます。子組織が新たな事業の行動を取ることで、親組織に新たなハイブリット性(相互扶助、互酬性)を加える機能をしている。同時に経済的ロジックの面で親組織が子組織を支え(連携による経営基盤の強化)ていると捉えられます。

セレクティブカップリング(注)それぞれの制度ロジック から引き出された有効な要素を選択的に組み合わせる セレクティブ・カップリング
桜井氏(2020) 福祉NPO・社会的企業の経済社会学 明石書房 2020  p246

社会福祉法人の経緯と地域公益活動

ここで少し社会福祉法人に触れたいと思います。理由は、雇用と支援や営利と非営利が接近している今の流れを改めて整理すると、それが社会的企業への動態化とすれば、その活動フィールドの次元には横軸に共益性と公益性、縦軸に事業性の高低という二つの軸が見出されてます。実際、これを別の言葉で言ったのが社協の社会福祉法人ビジジョンです。地域住民のニーズの増幅を受け、制度内サービス の運用の幅を広げることと、制度外ニーズへの対応という二つを軸にまとめています。(注1)少し大袈裟に言えば、アイデンティティの再定義と言えそうです。

国家には生活保障の義務があるという憲法25条則り社会福祉事業を 担う責務と本来的な運営主体を行政としながら、所轄庁の指導監督を受けながら事業を展開してきたのが社会福祉法人です。地域の セ ー フ テ ィ ネ ッ トとして 一定の 公共的役割を果たしてきており、これまで主要なサービス供給主体になってきました。(牧野2017) 2019(令和元)年度末時点の社会福祉法人数は 20,933 法人で,前年度に比べ 61 法人(0.3%) 増加しています。設立経過年数別では40年が一番多く、サービス活動収益別では1ー2億未満が一番多く、設立時から規模が変わらずに長らく小規模を維持する事業者が多くを占めます。(WAMNET2018)その多くは一法人一施設型です。その他は母体や規模によって内容が多様化し経営タイプが分かれます。養護老人ホームが介護保険事業として特別養護老人ホームなどを経営するなど一法人複合施設型,さらに有料老人ホーム, 配食サービス,認定こども園等を運営するなど一法人他業種型があります。(大澤2020)これまで、社会福祉法人制度に影響を与えたのが、サービス提供主体の多元化や措置制度から契約制度への転換がされた2000年社会福祉基礎構造改革と社会福祉法改正、そして公益性・非営利性の徹底の視点からガバナンスの強化と地域社会への貢献が広がった2016年の法人制度改革です。ここではそれ以前の社会福祉法人の歴史的展開を簡単に振り返ります。

戦後まもなく昭和 26(1951)年の社会福祉事業法による「措置制度」の福祉サービスの 受け皿の機能を果たしてきた社会福祉法人です。1950年 「社会保障制度に関する勧告」の な か で,民 間社会事業に対し て ,「特別法人制 度の 確立 によりその 組織的発展を図 り、公共性を高めることによって ,国および地方公共団体が行う事業と一体となって活動しうるよう適当な措置をとる必要がある」 との勧告を受け,その特性を活かすための措置として特別法人として創設されました。具体的には、国家には生活保障の義務があるという憲法25条に則り社会福祉事業を担う責務を本来的な運営主体を行政としながら、事業の実施を民間 に委ねることとした。そして、事業の公益性を担保する方策として、行政機関が福祉サービスの対象者と内容を決定し、それに基づき事業を実施する仕組みとして措置制度が作られました。その際「公が慈善博愛事業を行う団体に国が補助金を供与してはならない」 という憲法第89条の公私分離の規定は大きな壁でした。そこで特別公益法人としての「社会福祉法人制度」を創設し、多くの社会事業組織に社会福祉法人を取得させて、「公の支配」が踏襲される形体にし、公金の支出(措置委託制度)を可能としました。社会福祉法人は所轄庁の指導監督を受けながら事業を展開してきました。(牧野2017、芝田2014)

こうした経緯から求められた公共性に着目すれば,措置委託制度を通して地域 のセーフティネットとして一定の公共的役割を果たしてきました。他方,民聞事業者としての先駆性や自主性については ,政府による「規制 と助成」のなかで民間性を失い,自らの役割を公的福祉の代行という下請け的な範囲にとどまらせ るに至ったという批判もあります。(村田2010)これからの社会福祉法人の経営について、全社協福祉ビジョン2011は、地域住民のニーズの増幅を受け、制度内サービス の運用の幅を広げることと、制度外ニーズへの対応という二つを軸にまとめています。前者は「柔軟に対応できる制度内の福祉サービスの強化確立」とされ「新たな福祉課題・生活課題についても柔軟な運用により解決」を図るものと述べています。後者は「制度で対応しにくいニーズに応える福祉サービス・活動の積極的展開」であり、「専門職のみでは解決しないニーズ」を「住民・ボランティアや他の組織と連携」し、各々の持つ専門性、拠点、ネットワーク等の資源を活かして対応することが示されています。こうしたことの一つの形として2022年 に社会福祉法人を中核とする社会福祉連携推進法人制度が創設されました。措置から契約や基礎構造改革で生じた一法人複数施設化や一法人他業種化は、あくまで利用契約に基づいた福祉事業でしたが、これからは契約のない地域住民の生活課題の解決、地域公益活動を含む展開が期待されています。明らかにアンバランスな変化に見えますが、この流れを理解し組織の置かれている環境に応じて柔軟に方向性を見直す努力が必要となります。(注2)

(注1)地域公益活動(公益事業を含む)に関わる議論の対象範囲は、自前のサービ スとの関係で「制度内の実施-制度外の実施」という比較軸と、「(契約した)利用者に対する支援-(利用者ではない)地域住民に対する支援」という比較軸に分類できる。第1象限は、利用者に対する制度サービスの提供、第2象限は、対住民に対する制度サービスの提供、第3象限は対利用者の制度外サービスの提供、象限4が対住民の制度外サービスの提供と捉えられる。このなかで第2象限が社会福祉法の公益事業の定義になる。加山2020
(注2)地域公益活動とは、施設がもつ有形無形の経営資源によって,施設利用者に還元するのみならず地域の課題の発 見・解決に資するという取り組み。それ自体は歴史が長く,1970年代の「施設社会化」に対して今日的な動向を「第二の施設社会化論」と 捉え、岡本榮一 はその機能を〈なぎさ〉という概念で説明している。〈なぎさ〉とは、さまざまな人々が出会い、 語り、多様性を創造する空間・活動だとされ、市民の主体的な参加によって生まれる「新しい公共」、 孤独・孤立といった課題に向き合う「つながり」の再構築等の契機が内在するとしている。社会福祉法人の行う事業としては,社会福祉事業を行うことができる他,必要に応じ公益 事業又は収益事業を行うことができる,としている。(厚生労働省,「社会福祉法人の認可に ついて」平成 28 年 11 月 11 日,局長通知。一部抜粋)。公益事業と収益事業は補助金や受託事業収入以外の自主事業収入に該当する。公益事業については,具体的な例として,以下のような事業 を挙げている。ア. 相談,情報提供・助言,行政や福祉・保健・医療サービス事業者等との連絡調整を行う等の事業。イ. 入浴,排せつ,食事,外出時の移動,コミュニケーション,スポーツ・文化的活動, 就労,住環境の調整等(以下「入浴等」という。)を支援する事業。ウ. 入浴等の支援が必要な者,独力では住居の確保が困難な者等に対し,住居を提供又は 確保する事業。エ. 日常生活を営むのに支障がある状態の軽減又は悪化の防止に関する事業 。オ. 入所施設からの退院・退所を支援する事業 。カ. 子育て支援に関する事業。キ. 福祉用具その他の用具又は機器及び住環境に関する情報の収集・整理・提供に関する 事業。ク. ボランティアの育成に関する事業。 ケ. 社会福祉の増進に資する人材の育成・確保に関する事業。(社会福祉士・介護福祉士・ 精神保健福祉士・保育士・コミュニケーション支援者等の養成事業等) コ. 社会福祉に関する調査研究等
牧野2017 社会福祉法人制度改革と今後の社会福祉法人経営
大澤2020 わが国の市民活動における非営利組織の現状と課題
芝田2014 社会福祉法人制度の意義や役割の変遷と今求められる機能
村田2010 福祉市場化における社会福祉法人経営

労働統合型社会的企業(WISE)研究と類型化

社会的包摂の有効な手がかりとして積極的労働市場政策の有効性が指摘されるなか(宮本 2009),社会福祉学や社会政策学の研究者による就労支援に取り組む事業体の研究が進められるようになりました。営利を目的としないこれらの事業体は,労働統合型社会的企業(Work Integration Social Enterprise: WISE)と呼ばれ,欧米諸国で研究対象として近年注目されてきた。積極的労働市場政策の整備が進む日本においても,WISE の活動についての関心が集まっている(藤井他編 2013)。欧州では 社会的排除の解消に向けた社会政策の転換とい う文脈で社会的企業(注1)が注目されるのに対して、 アメリカでは財政削減を背景とした NPO の事業化という意味で社会的企業が注目されるよう になった。このため二つは別々の文脈で研究が発展しています。欧州において、社会的企業研究を主導する研究 ネットワークに EMESがあるが、EMES はサー ドセクターの開放的・混合的・多元的・媒介的性格を強調する。つまり政治、経済、社会の要素が組織の中 で混合(ハイブリット)しています。
国内では、藤井氏(2013)は日本のWISEの代表例としての, 労働者協同組合とワーカーズコレクティブを対象にしています。社会的企業は政府、市場、市民社会の媒介領域に位置し、多元的な資源・目標・ 運営メカニズム・組織文化等が入り組んだ組織 であることを指摘しています。

米澤氏(2009)は障害者就労事業所を対象にして組織内部での政府や市場、コミュニティの資源を混合する性質があり、それが事業の継続および社会的排除の解消に貢献していることを明らかにしています。具体的には、健常者と障害者が同じ立場で働きながら、事業体として効率性を追求することで、高い割合で市場からの収入を獲得しつつ、日々の運営や 設備への投資を行うために行政からの補助金を確保し、反能力主義を徹底することで障害者へ も最低賃金を保障しながら活動する共同連を事例として、補助金収入など政府からの再分配と事業収入などの経済領域からの市場交換、社会関係資本の互酬の要素が組み合わされる結節点としての機能を指摘します。

二人の分析対象が違うことからも分かる通り、WISEもソーシャルビジネスと同様にいろいろな組織形態や法人格が含まれていて対象特定の困難さの問題を抱えています。(注2)これに対して米澤氏はこれまでのように非営利組織を経済性と社会性といった二項対立に落とし込むのではなく、社会性として一つにまとめれらえるものの多元性を制度ロジック(注3)の視点から支援型と連帯型に類型化します。両者では異なる価値基準が存在していることを示しています。具体的には、支援型で市場ロジック(経済性)と共存している社会性は専門職のロジックです。専門職が就労支援の中で当事者を適切に支援し、適切に当事者の声を聞きとることが目指され、それによって個人差や程度の差はあろうとも生産活動への包摂を試みます。一方、連帯型の社会性は民主主義のロジックです。これは支援という関係性に反発し専門職による支援に抵抗感を示し、望ましい生産を行う際には当事者間の運営参加を重視する考え方です。つまり、支援型は中間的就労における就業と伴走型支援を組み合わせ、段階的な就労の場を設け、相談支援を組み合わせることにより一般就労へと結びつけるものです。これに対して連帯型は就労の捉え方とそれによる社会的包摂の目指す方向性の違いが認められます。共に働き、対等に事業を運営することや、たくさん働ける者もそうでない者も仲間として交じり合いながら一緒に働き、仕事に障害者を合わせるのではなく、障害者に仕事を合わせるといった働き方のアプローチを取ります。そして、収益は対等平等に分配する反能力主義的で、支援によって能力を伸長する中間的就労の目指す方向性とは対照をなしています(米澤2017 )

連帯型のモデルは社会的事業所ですが、その前身は90年代前半、共同練という障害者運動のネットワークから形成された共同事業所にあります。特徴はある程度自立した経済的な事業体としての性格と働き方にかかわる健常者と障害者の対等性の二つの性格がある。前者は小規模作業所が後者は一般企業と対比的になっている。2000年以降、共同事業所に代えて社会的事業所という組織形態を強調するようになる。違いは障害者以外の就労困難者も対象に含む点にあります。複数の背景を持つ従業者が異なる性格に意義を見出して就業に関わりながら、同じ生産活動に携わるという点に特徴があります。しかし同時に低賃金問題や技能蓄積の不全を引き起こしている側面があります。
支援型のモデルの生活クラブ風の村は、ユニバーサル就労の枠組みで障害者やひとり親、就労経験の乏しい若者などに内部支援と外部支援の二重に手厚い支援をしながら、段階的に就業のステップを踏む。労働時間を見ると30時間以上勤務している人は1割程度で、多くは20時間以下になっている。運営は生活科学運営と生活クラブ生協千葉と他専門団体とも連携しながらユニバーサル就労ネットワークちばが運営する。組織内の資源配分の点から特徴的なのは、人件費負担の仕組みが雇用と非雇用の間で異なること。非雇用の場合、人件費負担は法人全体の積立金から支給される。つまり人件費を含めたユニバーサル就労にかかる経費は個別の事業所では負担がなされず法人全体で積み立てる地域福祉支援積立金より支払われます。

米澤氏は支援型の効果と限界について次のように述べています。まず就労機会の提供が生活全体の改善に貢献している点を挙げます。具体的には技能や挨拶が習得されることや継続性や自信がつけられます。一方で対象者によって課題やステップアップの進度にばらつきがあり所得保障に限界がある。そして、運営の論理として福祉ロジック(専門職ロジック)と市場ロジック(経済性)が共存するなかで、当事者の処遇に影響することが挙げられる。つまり個々の組織レベルの混合の違いによって左右される側面がある。(注4)一方、連帯型の効果と限界は、反能力主義的な考え方による働きやすさ、具体的には自律的な労働スタイルや仕事のやりがい、あるいは柔軟で負荷の弱い働き方が効果として挙げられる。同時に組織レベルでの生産性とどのように両立させるかが一つの課題になる。(注5)組織の持続可能性を高める市場ロジックと従業員の必要充足する民主主義ロジックの間のコンフリクトがあり、その結果、低賃金問題が生じます。

最後に、二つの共通点として、いずれの類型においても生活に足るだけの収入は就労によってのみでは得られないことを指摘する。専門職ロジックと民主主義ロジックは市場ロジックを緩和する機能を果たしているが、それゆえに就労だけで生計の保障を行うことは難しい。社会的企業による就労機会の提供は、所得保障政策と代替的関係にあるのではなく補完的関係にあると指摘します。その延長線上で、就労支援のみならず生活、居住単体では成し遂げられず伴走型支援が重要になる。そこでの焦点は連帯による包摂的な地域コミュニティを形成すること、そして市場経済だけには置き換えれない人々の支え合いを基盤にした経済を作り出すことと述べています。こうした互酬性と再配分を重要な柱とする多元的経済を地域を基盤に作っていこうとする考え方は、社会的連帯経済のコンセプトと同じ言えます。

(注1)EMESは社会的企業は,政府・市場・コミュ ニティ(市民社会)の三極の媒介領域に位置すると認 識されてきているという。そして,社会的企業の組織構造は,①多元的目標(社会的目的と事業上の経済的 目的),②マルチ・ステークホルダーの参加(多様な 利害関係者が,民主的な意思決定プロセスに参加する ガバナンス構造),③多元的経済(資源構成として市 場,再分配,互酬性を継続的に混合する。とりわけ互 酬性としてのソーシャル・キャピタルを重視する)に よって特徴付けられているとしている。
(注2)内閣府による委託調査「我が国における社会的企業の活動規模に関する調査報告書」(2015)8によると、調査にあたって社会的企業の条件を、以下の 7 つを全て満たすものとしている。①「ビジネスを通じた社会的課題の解決・改善」に取り組んでいる ②事業の主目的は、利益の追求ではなく、社会課題の解決である ③利益は出資や株主への配当ではなく、主として事業に再投資する(営利法人のみ) ④利潤のうち出資者・株主に配当される割合が 50% 以下である(営利法人のみ) ⑤事業収益の合計は収益全体の 50%以上である。 ⑥事業収益のうち公的保険(医療・介護等)からの収益は 50% 以下である。 ⑦ 事業収益(補助金・会費・寄付以外の収益)のうち行政からの委託事業収益は 50% 以下 である
(注3)制度ロジック ThornsonとOcasio (1999)によれば、制度ロジックは「様々な制度的あるいは社会的セクターで普及している文化的言説と具体的実践を基に した,組織と行為についての主軸となる原理」として定義され(Thornton, 2004, p.2),組織にお けるパワーや構造,プロセスは環境における高次の制度ロジックによって決定される(Thornton and Ocasio, 1999)と論じられている。 新制度派組織論では組織は環境から正当性を調達することによって存続が可能となる、同時に業界内での組織間のネットワークが緊密化するにつれて,強制的, 規範的,模倣的などの制度的圧力が増大し組織同型化が生じる、組織フィールドの構造化が制度的同型化を引き起こす。これを埋め込まれたエージェンシーのパラドックスとされ制度の変化をどのように説明することができるかが問われる。これに対してDiMaggio は自らの利害を実現するために新たな組織形態や実 践を創造し変革していく組織化された行為者,「制度的企業家」(institutional entrepreneurs)の活 動に焦点を当てるべきだと主張した(DiMaggio, 1988)こうした組織フィールドの多様性を特徴づけ,そこに関与する行為者の解釈枠組みの競合を分析するために,しばしば利用される概念装置が「制度ロジック」(institutional logics)である。こ の概念を提唱した Friedland and Alford (1991)によれば,資本主義,民主主義,国家,家族など の現代社会の制度的秩序の各々は,その構成原理となる中心的なロジックを持っている。
(注4)サービス生産組織では その構成要素のシステム的関連性が強い。組織内のさまざま な価値システムとりわけ企業理念が大きな影響 力を持つ。組織を構成する各要素のシステム的関連性が製造業企業などに比べて高い。(近藤1997)
(注5)福祉施設の支援の質を評価するには、ヘルスケアの質の評価モデルとして最も ポピュラーなドナベディアンモデル(Donabedian 1980=2007)のStructure(構 造)・Process(過程)・Outcome(成果)の3つの枠組みによる考え方をベース に検討することができる。これによると、わが国のこれまでの福祉サービス第三者評価を含む福祉施設の評価は、職員や組織体制や建物などの環境について評価 するストラクチャ評価、そして支援を行う手順やその過程について評価するプロ セス評価が中心であった。現行の評価制度はOutcome(成果)においては、使用されている評価指標がStructure(構造)、Process(過程) に比べ少なかったが、主に「機能の効果」、「利用者の気持ち」、「総合評価」に関する指標に分類された。しかし、これら のアウトカム評価項目の多くは、Process(過程)に対するOutcome(成果)、あるいは「支援」 に対する「効果」を測定する指標として、両者の間に因果関係がある測定による「利用者アウト カム」とは言えないものであった。支援内容や支援過程とのつながりがない、総合的あるいは全体的な結果を評価するアウトカム評価であった。アウトカム評価指標として以下の4点の要件を満たすことが重要である。 ① 支援と利用者の効果の関係によるアウトカムを測定する ② 支援の効果は、支援の介入前後の2時点の変化によって測定される(支援の介入効果) ③ 効果は利用者による主観的評価と、個人の見方・感じ方に左右されずに事実を計量的に評価する客観的評価の両方をもって測定する(効果の主観的評価と客観的評価)④ 福祉施設ごとの種別特性をふまえた評価指標である 。以上4点の要件をふまえた具体的なアウトカム評価指標について、ICFの機能項目を踏まえて 検討していくことが今後の方向性と述べている。重田2021 
藤井他編著(2013)闘う社会的企業 勁草書房2013
米澤2017 P186.193.194.196

ソーシャルビジネスと営利と非営利の接近

就労支援市場の経営主体別シェアが見当たらなかったので、令和4年障害福祉サービス等経営概況調査からザックリと売上シェアを計算したところ(注1)、就労系は移行、A型、定着の3サービスで営利が60%程のシェアを占めています。一方、B型は社福が50%のシェアを占め、次いでNPOが30%です。各々が単独で過半数を占めるシェアを持っていることから制度サービスは棲み分けがされていると言えそうです。就労系3サービスでシェアを占める営利の事業の特徴のひとつは、企業と利用者をつなぐスキームを組んだサービスです。つまり雇用と支援の連携をテコに企業と補完的関係にあります。

 
話題の組織を見てみます。たとえば、株式会社リタリコは「障害福祉・教育・介護領域で事業を展開し、店舗(直接)サービスとして主に発達障害のある児童への学習支援や働くことに障害のある大人への就労支援をおこなっています。国内最大級となる200拠点以上を自社で運営しています。そして直接支援で培った様々な知見やデータをプロダクト化し、自社のプラットフォームを通じて業界全体に普及させることを目的に、近年はテクノロジー領域への展開にも注力しています。具体的にはプラットフォーム事業として対当事者・ご家族・福祉事業所・学校・企業・従事者など、多様なお客様へ多くのプロダクトを提供しています。2021年2月にグループインした福祉ソフト株式会社(2023年1月にLITALICOと合併)や2022年4月にグループインしたプラスワンソリューション株式会社とも一体化した事業運営をスタートさせており、今後障害福祉の全領域および高齢者福祉(介護)の全領域をターゲットとした事業戦略を描いています。」就労移行支援と幼児教室や学習塾などのBtoCサービスと、企業と障害者福祉施設向けに人材紹介サービスや公費請求に関する業務代行などのBtoBサービスを提供しています。

株式会社ヘラルボニーは岩手県発のソーシャルベンチャーです。「知的障害のあるアーティストが描くアート作品を商品化し、社会に提案するブランドです。具体的には国内外の知的障害のある作家とライセンス契約を結び、2,000点以上のアートデータを軸に自社ブランドやライセンシング事業を行っています。事業の中心はアートデータとそのライセンスです。著作権としてお預かりした作品をデータ化し、そのアートデータをさまざまなモノ・コト・場所に展開しています。作品がプロダクトとなってリテールに流れたり、建設現場の仮囲いやオフィスに展開したり、各種パッケージに展開したり。現在は自社ブランドも運営していますが、基本的にはさまざまな企業や地方自治体などご依頼のあったお客様に高解像度のデータをお渡しし、そのライセンスフィーを作家に還元しています。」著作権を軸にしたIPビジネスを行っていてます。

スタートライン株式会社は障害者雇用支援総合コンサルティングサービスを利用者と企業向けに提供しています。具体的には「IBUKI 農園は天候の影響を受けにくい屋内型農園を活用した、障害者雇用の仕組みをワンストップで提供するサービスです。企業に雇用された障害者は、ハーブや葉物野菜、エディブルフラワー等の栽培装置が設置された執務スペースで、栽培品種の選定や育成に従事します。栽培した作物は、企業ごとの用途に合わせてハーブティーなどに二次加工をおこない、営業活動や採用活動のノベルティや福利厚生として社員に振舞われたりして活用されます。IBUKIの施設には、障害者雇用支援の専門的な知識を有した当社社員が常駐しており、安心して働ける環境が整っています。サテライトオフィス型雇用支援サービスのNCLU(インクル)は、職域開拓や採用、適性判断やチームビルディング、定着や能力開発に関する相談までトータルで支援します。バリアフリーというハード面の環境だけでなく、障害者雇用支援の専門的な知識を有した当社社員が常駐しているため、様々な障害種別の方が安心して就業することができます。」企業向けに障害者雇用をプランニングから課題解決までトータルサポートを提供しています。

3つの組織の資金調達と成長の側面を見ると、リタリコは14年社名後に16年マザーズ上場(5億)、17年一部上場(2億超)しています。売上高は2012年は17億で2022年は197億となり10年間で11倍に増えています。2021年にはテクニカル上場という方法で公費事業と私費事業を分離し私費事業の成長加速を実現するためグループ体制の再編成を行っています。ヘラルボニーは18年設立後、21年シリーズA資金調達(1億超)しています。売上高は18年に設立してから毎年2~4倍前後で増えています。2027年に株式公開を予定し、売上高は5年間で10倍の達成を目論んでいます。(注2)

 
こうした組織の多くはソーシャルベンチャー(SV)と呼ばれる組織です。日本におけるソーシャルビジネスの定義としては 2008 年に経済産業省が発表した「ソーシャ ルビジネス研究会報告書」(2008)によるものがあります。この報告書では「社会性」「事業性」「革新性」の三つを備えたものをソーシャルビジネスと定義しています。2つの領域があり一つは「市場の対応を超える領域」、ビジネスが扱うには市場が小さすぎ利潤が確保できないと考えられてきた領域に、ソーシャルビジネス事業者が様々な事業スタイルと事業戦略をもって対応するようになっています。もう一つは「政府・行政の対応を超える領域」で、福祉、教育、環境、健康、貧困、コミュニティ再開発、途上国へ の支援など、従来は政府・行政などが担ってきた領域です。(谷本2006)2018年の日本政策金融公庫のソーシャルビジネス関連融資実績では「社会的課題の解決を目的とする事業者」向けの融資が、2,527 件(同 125.0%)、170 億円(同 119.9%)と大きく増加していて存在感が増しています。
 
その運営主体はNPOなどの非営利組織はもちろんのこと、株式会社や合同会社などの 営利組織としての形態をとっていても、その組織の目的が社会的問題の解決を目指している場合にはソーシャルビジネスに含まれるものとして考えます。SVの存在感が増す背景には、神座氏(2006)によれば、営利企業といえども社会貢献を意識せざるを得ない流れがあります。一方で非営利であっても自力でキャッシュフローを生み出す努力をして組織のサステナビリティを確保しなければ高遇な社会貢献の理念は実現できません。つまり、営利は社会貢献が求められ、非営利には事業としての自己完結性が要請される流れが定着しつつあります。別の言葉でいえば、営利と非営利は接近していると言えます。
 
それから、社会貢献を別会社形態で行うことを希望する企業はソーシャルベンチャーに適した資金提供者となります。大企業の豊富な経営資源が活用されれば、SVが単独でなしうる社会貢献レベルを超える。多くの営利企業が社会貢献事業に進出すればSVの役割を営利の持つ潜在的な社会貢献能力をどのように社会還元させるか、その知恵を絞ることにシフトするという戦略が浮上すると指摘します。実際、就労支援市場で農園・サテライトオフィス型雇用支援サービスが急拡大しているのは、新戦略の現れと見ることができます。
もう一つ見逃せないのが、事業型NPO(注3)の動向です。NPO制度が発足してから 20 年以上が経過した今、NPO 法人の数は2014年ごろから5万超で頭打ちになっています。20 周年にあたる 2018 年 度には初めて前年を下回っています。(注4)代わりに2006年の公益法人改革によって新設された一般社団法人の数が増えています。(一般財団と一般社団法人数は69814)こうしたなか経営学系の非営利組織研究では、近年は社会的企業やソーシャルイノベーション、社会起業家といったものに実践も研究も分化しています。(吉田2019)

 
(注1)経営主体別の事業所当たり事業活動収益額X客体数/事業活動収益合計額から算出。グループホーム系は包括型で社福が60%のシェアを占めています。日中型のシェアは営利50%と社福40%です。外部型は社福40%に次いで医療法人20%とNPO17%です。児童系については、放課後デイは営利が60%のシェアを占めています。次いでNPOが20%です。一方、発達支援は社福が60%のシェアを占めています。
(注2)目下、スタートアップ第4次ブームと言われ大企業の資本と業務提携が生じている。VCやCVCによるベンチャービジネスの常識を注入した事業のブラッシュアップ、つまりキャッシュフローを生み出す仕掛けであるビジネスモデルやその実現可能性について厳しいデューディリジェンスを行うこと、投資先の経営状態を常にチェックしハンズオンを行うこと、提供した資金の投資成果を明らかにすることなど、V Cの支援は財務管理、資金調達、IT、PR、プログラム評価と成果管理、人的資源、戦略計画、法務、リーダーシップ開発、経営層人材の採用、訓練などに及ぶ。
(注3)事業型NPOとは、寄付や会費、行政からの補助金や助成金にだけに頼らない事業構造であるため収支の均衡という事業性の実現が求められる。谷本(2006)では,ソーシャ ルビジネスの組織形態を,事業性と社会性の 程度によって,事業型NPO、慈善型NPO、中間組織、社会志向型組織、一般企業に分類しています。たとえば、病児障害児保育のNPO 法人フローレンスの収入の内訳は、 事業収入 約 73%、 民間助成金等 16.1%、 寄付金 10.7%。NPO法人カタリバ は約 4 億円の収入のうち、寄付が 2 億円、事業収益が 2.3 億円。2010年頃NPOの収入源の多様化の議論が盛んになった。 馬場と石田は短期的には事業収入拡大だが持続可能性を高めるのは中長期的には寄付助成が有効であることを示した。ファンドレイジングは貧困問題など深刻な国際的な問題の事業タイプは、 より広い範囲の人々からの継続的な支援は得られやすい点があり、 ファンドレイジングの導入によって、 もう一つの収益の チャネルとして効果をもたらすと考えられている。 一方、 特定の人々や地域に限定されたタイプでは、 ファンドレイジングを高く評価してしまうことには限界があるとされる。 こうしたなかで商業化のメリットは, 財政難を乗り越え自主財源による自立ということがあげられる。キャッシュフローを確保するために事業規模と生産性を上げることが肝要とされ、成長の障壁と経営資源の蓄積という問題に直面する。,一定以上の収益規模を構築するためには, 現時点では介護保険,障害福祉サービス,障害児通所支援などの制度内サービスや,物理的な施設(駐車場 や児童館など)を運営する指定管理や委託事業などある程度まとまった契約額の事業を行うこと以外にほかの選択肢は考えづらいと指摘している。(田中ほか2010)
(注4)一つの理由はNPO 業界では、これまで牽引してきた団塊世代が 第一線を退く時期に入り,事業承継問題がク ローズアップされるようになり,全世界的に NPO の大きな経営課題となっています。(横山2022)
谷本2006 ソーシャル・エンタープライズ(社会的企業)の台頭 中央経済社  2006年
神座(2006) 概論ソーシャルベンチャー ファーストプレス 2006年
 

就労支援業界の概況

就労支援とは何でしょうか。障害者福祉全体の令和5年度予算案は1兆9,562億円です。この15年間で3倍以上に増加し、毎年1割程度伸びています。障害者総数は1,160万人で人口の約9.2%に相当し、利用者数は令和4年12月で147万人です。ともに近年増加傾向にあります。(注1)在宅で生活している知的障害者数は全体の 88.9%に当たる96万2 千人です。そうした方々の多くが利用する就労継続支援B型の利用者数の58%を40歳以上が占めています。(R4厚労省報酬改定資料)利用者の方々の高齢化と暮らしの支援ニーズの顕在化が進んでいます。

一方、労働年齢人口については精神障害者数が増加しています。身体障害者数436万人の次に多く、精神障害者数は419万人です。精神障害者の方と発達障害者の方は就労移行支援の主たる利用層であり、就労移行支援の事業所数は 2007 年の 603 事業所から,右肩上がりに増加して,2018 年には 3,503 事業所 になっています。(横山2020)
就労支援市場規模は、2021年度の事業者売上高ベースで6,931億円です(前年度比7.9%増)。そのうち「人材紹介・採用代行サービス」が26億円(同13.0%増)、「農園・サテライトオフィス型雇用支援サービス」が97億円(同24.4%増)でした。この市場は「就労継続支援A型・B型」が占める割合が高いものの、「農園・サテライトオフィス型雇用支援サービス」が調査対象4分野の中では最も高い伸び率で推移しており、規模を急速に拡大しています。一部のサービス提供事業者では自社で培ったノウハウを顧客企業へ伝授する取り組みなどを推し進めています。こうした顧客企業内での障がい者雇用に関するノウハウを習得、蓄積するための支援がますます重要視されていくものと予想されます。(日経2022年07月13日付) 

新たなサービスの担い手はソーシャルビジネスを掲げた株式会社です。サービス給付の量拡大により福祉の生産供給の多様性が増しています。同時にそのために多様な組織主体から構成されるサードセクターが結果的に注目されています。(米澤2017)この流れを政策が後押ししています。たとえば2024年4月に新たに創設される就労選択支援サービスは、就労系障害サービスの利用を希望する障害者へのアセスメント実施を制度化し、雇用施策と福祉施策の連携が強化されます。この支援の手順は中間的就労における一般労働市場への移行を目指す場合の典型的な支援の流れと言えます。サービス給付量が増えるなか雇用と福祉の連携をテコに、従来サービスを提供してきた組織とは違う新たな組織の存在感が強まっています。

ここでは、就労支援事業を行う多様な組織形態を通じて、業界がどのような方向を向いているのかを理解すること、あとは新しい事業の展開のヒントを見つけたいと思います。そのことを通じて就労支援業界へ転職を考えている方が就職先の将来性を見通すポイントも見つかると思います。そもそも就労支援市場は行政との取引および政府が一定コントロールする準市場が形成され、そのあり方を定める障害者総合支援法は3年に一度見直されます。同時に報酬も変わります。そこでは政策の各論点だけでなく、制度や障害福祉サービス等のあり方そのものに関して中長期的な議論がされます。つまりルール作りとその効果の修正を繰り返しつつ制度の姿がアップデートされるので事業環境は変わり続けます。そのため政策動向は外部環境の大きな要素となります。 

大きな流れでは2000年代にアクティベーション戦略(注2)による積極的労働市場政策が導入され、2010年以降は対象者や制度のカテゴリーを横断する政策となってきています。そこでの論点に社会的企業が挙げられ新しい法人制度を含む議論があります。社会的企業の議論は学術界のサードセクターや非営利組織の理論的発展においても主流になりつつあります。(吉田2019)なので社会的企業を理解することはひとつの重要なポイントと考えられます。それと、これまで利用契約に基づく利用者支援の提供をもって公益性への貢献としていた社会福祉法人は、地域住民に対する生活課題の支援、つまり地域公益活動の要請があります。これにどのように対応するかを社会的企業に引き付けて考えてみます。 

(注1)今後の福祉業界の市場規模は他業種を抑え25兆円ほどともいわれる。介護業界の市場規模は10兆7,812億円(2019年度)で半分ほどを占める。
(注2)アクティベーション戦略とは福祉国家再編の方向性としてベーシックインカムやワークフェアと並んで、人々の労働、社会活動への参与を促進する戦略で先進国に共通にみられる。積極的労働政策との違いはより幅広い政策手段を含むこと、所得保障のみによって生活保障をなすのではなく人々が生産活動に参与することに価値を置く。
横山2020 制度ロジックからみた社会的企業のマネジメント
米澤2017  社会的企業への新しい見方 ミネルヴァ書房
吉田2019 日本におけるN P Oの経営学的研究
 
 

就労支援事業の経緯と雇用と支援の接近

まずは簡単に就労支援事業の歴史を振り返ってみたいと思います。武田氏(2020)によれば、障害者の就労は1960年代頃より小規模な障害者作業所が各地で設立されるようになり,70年代には全国作業所連絡会, 全国授産施設協議会といった全国団体の組織も結成されるとともに,国の補助制度も徐々に整備されるようになっていきました。1984年に設立された共同連が打ち出した共同事業所構想から発展した社会的事業所において,障害者と健常者の協働の生活・労働の場が作られてきたとされます。(藤井2017、米沢2017 )ほぼ同時期には失業対策事業労働者の組合とワーカーズコレクティブ,ワーカーズコープ等協同組合の連携による就労支援事業も始まっています。
政策枠組みとしては障害者雇用促進法を別として、身体障害者福祉法,知的障害者福祉法がそれぞれ授産施設の設置を定めるのみで,障害者の就労は一般労働市場から切り離された形で,かつ小規模に営まれるものがほとんどでした。障害者就労支援の制度的枠組みがより体系的に整備され たのは,2006年施行の障害者自立支援法です。これにより,従来の障害者作業所は就労継続B型(雇用契約なし),同A型(雇用契約型),就労移行支援の三種の事業所に区分されます。
同法は2013年施行の障害者総合支援法に改正され,これは翌2014年の国連障害者権利条約批准に向けた国内法整備であり,差別禁止や当事者の自己決定権,合理的配慮等の権利条約の主要な理念 が盛り込まれました。さらに2016年発効の改正障害者雇用促進法では,雇用における差別禁止や合理的配慮が義務付けられます。
障害者雇用率上昇に向けて、保守的な施策アプローチは労働供給戦略として職業リハビリテーションがあり、より野心的な戦略は労働需要アプローチと呼ばれ、法定雇用率,雇用者の義務とインセンティブ,雇用補助金等が採用されています。こうした動きは雇用と支援の接近と言えます。
もう一つの流れは貧困や社会的排除の問題の現場、つまり若者、ホームレス、生活困窮者、シングルマザーの就労支援を目的とするもので対象者の拡大があります。2015年の生活困窮者自立支援法の担い手となったワーカーズコレクティブなどがサービス提供主体としてあります。近年の就労支援政策は対象者と制度を横断した取り組みが行われています。

武田氏(2020)労働市場政策と障害者就労支援の接近2020

プロアクティブ行動のあらまし

近年の組織社会化研究では,若年就業者を環境に影響を及ぼす主体的な存在として捉える方向に研究関心がシフトしつつあります。それがプロアクティブ行動の研究です。(注16)組織を取り巻く環境の変化が進むにつれ,組織成員は従来の方法や与えられた役割を遂行するだけでは変化する環境に対応するのが困難であることが指摘されています(太田・竹 内・高石他,2016)。そのため,組織に所属する個人は, 先見的志向に基づき率先的に組織の問題解決等を行いながら自らが組織環境に働きかけ,組織に適応していく必要があると考えられます。**
*若年就業者の組織適応を促進するプロアクティブ行動と先行要因に関する実証研究 尾形2016
**職業的アイデンティティがケアリング行動に与える影響 小野寺2021
 
プロアクティブ行動に関する先駆的研究であるアッシュフォードら(Ashford & Black1996)によれば、プロアクティブ行動とは「個人が自分自身や環境に影響を及ぼすような先見的な行動であり,未来志向で変革志向の行動」と定義されます。そしてプロアクティブ行動として次の7つを提示しました。
所属組織の力学や部門間の関係性など組織に関する情報を収集しようとする「情報探索」, 仕事に対するフィードバックを上司や同僚に求めようとする「フィードバック探索」,所属組織内で行われる交流会に参加しようとする「一般的社会化行動」,部署外の人的な繋がりを拡張しようとする「ネットワーク構築 」,上司との良好な関係性を築こうとする 「上司との関係性構築」,職務の役割や範囲を調整しようとする「職務変更交渉」,物事を良い方向に捉えようとする認知的傾向としての「ポジティブフレーミ ング」の7つです。***
最後のポジティブフレーミングは,個人の意思決定の準拠枠となる知識の構造と捉えられ行動とは異なると言われますが、アッシュフォードら(Ashford & Black1996)は,新しい状況を理解する際,このフレーミングがどのような行動をとるべきかについて影響を及ぼすためプロアクティブ行動に含めています。
***プロアクティブ行動がリフレクションを媒介して職場における 能力向上に及ぼす影響 − 20代の若年労働者に着目して− 田中ほか2021
 
以下引用です。
 
プロアクティブという言葉が言及され出したのは90年代前半の諸研究からであろう(e.g., Miller & Jablin,1991; Ostroff & Kozlowski, 1992; Morison,1993a,b)。プロアクティブ行動について注目される契機は、新人の意味形成過程への注意を喚起したシンボリック相互作用論的アプローチの諸研究であると思われる(e.g., Louis, 1980; Reichers, 1987)。しかし、新人の意味形成過程をそのまま研究することは難しいため、そこで代わりに、新人が新しい役割や組織環境についてより学ぶために、どう積極的に情報を探すのかについて注目することになった(Major, et al., 1995)。
例えばOstroff & Kozlowski(1992)は、職務遂行に関する情報に関しては、観察よりも試行錯誤によって多くを得ているが、人間関係や組織に関する情報は試行錯誤よりも観察によって多くを得ていることなど、情報分野によって異なった情報探索スタイルが用いられていることを示したを示した。同じような調査に、Morrison(1993b)があるが、ここでは職務遂行の方法に関する情報は直接質問が用いられ、役割期待や組織規範に関する情報や業績のフィードバックに関する情報は観察が多用されていることを示した。****
****組織社会化戦術とプロアクティブ行動 の相対的影響力 ―入社 1 年目従業員の縦断的データからドミナンス分析を用いて―小川2012
 
こうしてプロアクティブ行動には様々な手立てがあることが示されましたが,Ashford & Black(1996)は,新しい組織に参入したときに行われる手立てを抽出し,様々な組織に雇用されたばかりの学部卒業生を対象に調査を行い,上述した7つの尺度を開発しました。もともと独立に探求されてきたそれらの行動は、プロアクティブ行動というラベルの下にまとめられて研究が定着していきます。組織社会化以外の研究領域でも用いられ、その定義や意味内容が多様化し拡大しながらも、個別行動ごとに実証が進んだことや、集約した尺度を用いたことでプロアクティブ行動に関する研究が定着していきます。
 
 
プロアクティブ行動の実証研究の結果から、それが様々な何かに及ぼす影響が示されています。たとえばアッシュフォードら(Ashford & Black 1996)は、情報探索,一 般的な社会活動,ネットワーク作り,職務変更交渉,ポジティブフレームのプロアクティブ行動は自身の置かれた状況をコントロールできることを求める制御欲求に効果を与えること、フィードバック探索,ポジ ティブフレーム,上司との関係構築,情報探索のプロアクティブ行動は仕事満足に効果を与えること、上司との関係構築とポジティブフ レームは職務のパフォーマンスに効果を与えることを示しました。Wanberg & Kammeyer-Mueller(2000)は,関係構築活動が集団への統合に正の関係を持つことを示しています。
日本においては、小川氏は入社1年目を対象に縦断調査を実施し、組織主導の組織社会化戦術と個人主導のプロアクティブ行動の学習成果への影響を検証しました。結果は組織目標と自己イメージの学習については、個人のプロアクティブ行動の影響力が相対的に大きく、職務遂行と人間関係の学習については組織社会化戦術の作用が大きかったとしています。(注17)
星氏は若年就労者の仕事満足に対するプロアクティブ行動の効果を検討した結果、仕事満足に対してポジティブフレームのみが有意な効果を示したとしています。*****
尾形氏は社会人入社1年目から7年目までの合計165名を対象に質問票調査を実施してプロアクティブ行動が組織適応に及ぼす影響について検証した結果、革新行動は役割社会化と職業的アイデンティティ,主観的業績に影響を及ぼしていた。ネットワーク構築行動は仕事社会化と会社社会化に、ポジティブフレーミング行動は離職意思と情緒的コミットメントに、フィードバック探索行動は役割社会化と離職意思に影響を及ぼしていたとしています。(注18)******
田中氏ほかの面々は、国内民間企業に勤務する20〜29歳の正社員および契約社員942名を対象にWEBモニター調査を行い、プロアクティブ行動の具体的な内容によって職場における能力向上にもたらす効果が異なることを示しています。その中で職場における能力向上に直接的に有意な影響を与えるのはフィードバック探索行動のみであったとしています。
*****若年就労者個人の仕事満足感に対するプロアクティブ行動の効果についての検討 星2016
******若年就業者の組織適応を促進するプロアクティブ行動と 先行要因に関する実証研究2016
 
とまあ、見ての通り各々の目的によって変数が違うため一貫した結果がなくモデルの構築には至っていないようです。こうしたプロアクティブ行動の与える影響の成果の中に、専門職性の指標であるコンピテンシーが重要視するbeingとの関連性があるのかどうかを考えると、情緒的コミットメント、仕事満足感、自己イメージは自身のあり様を主観的に価値付けている状態と捉えれば、先の能力の入れ子枠組みでいう、何かを知っていて、それができるだけでなく、それを好む状態に達していると考えられます。つまりbeingにつながっている可能性があります。他にもパフォーマンス、役割はdoingと仕事社会化、会社社会化、組織目標はknowingとつながっていそうです。次はプロアクティブ行動を含めた要素間の関係性を見てみましょう。
 
 

職業的アイデンティティ→プロアクティブ行動→ケアリング

小野寺氏は看護師を対象に職業的アイデンティティ、プロアクティブ行動、ケアリング行動の関係を調査しています。具体的にはインターネット調査会社に登録されている看護師を対象に質問紙調査を実施し439 名から回答がありました。質問項目は、職業的アイデンティティ6項目、プロアクティブ行動項目はポジティブフレ ーム3項目と上司との関係構築3項目、ケアリング行動は専心性5項目と専門的技術7 項目でした。職業的アイデンティティとは従事する職業に対する価値や信念の内在化の程度を表す概念です。価値は個人の信念を内包しています(Rokeach, 1968)信念は,人間の態度や行動を方向づける高次の認知的要因です(Flavell, 1979 ;松尾, 2006。例えば看護師であることを好 む」,「看護の現場で働いていることを誇りに思 う」のように(Hao et al., 2014),看護師という職業との一体化意識が職業的アイデンティテ ィと言えます。*******
調査の結果は、プロアクティブ行動のポジティブフレームはケアリング行動の専心性に正の影響を与えていた一方で、ケアリング行動の専門的技術には有意な影響は認められませんでした。またプロアクティブ行動の上司との関係構築は,ケアリング行動の専心性と専門的技術に正の影響を与えていました。(注19)職業的アイデンティからケアリング行動の専心性と専門的技術への直接的な影響はなかったことから、プロアクティブ行動は職業的アイデンティとケアリング行動との間を媒介する効果を明らかにしています。このことから小野寺氏は次のように述べています。
*******職業的アイデンティティがケアリング行動に与える影響 ―プロアクティブ行動による媒介効果の検討―2021
 
看護師が職業的アイデンティティに基づいてケアリング行動を促進するためには,職場の状況を良い方向に変化させる組織適応行動としてのプロアクティブ行動がケアリング行動に対し,重要な鍵を握ると考えられる。これまでリーダーシップや看護職員への支援、仕事の質の評価改善といった状況要因に関する職場環境がケアリング行動に与える影響が着目されるなかで見落とされていた、職業的アイデンティティとケアリング行動との関係性を高めるためには,プロアクティブ行動を媒介させる必要があるというメカニズムを明らかにした。プロアクティブ行動を促すには、職員の能力に応じて,業務改善活動,病院組織の改善やケアリングの質を向上できるようなワーキング・グループ等に参加し,職場の問題を特定し解決する機会によって職員が職場に対してプロアクティブに関わっていくことが挙げられる。
 
 

おわりに

これまでの話をまとめると次の通りです。
専門職化とは、ある職業が専門職の構成要件を獲得していく変化のプロセスになります。なので専門職性を構成する要素を明らかにしておくことが重要になります。
教育効果の測定や専門化の指標とするコンピテンシーが有効かつ重要であると言われています。コンピテンシーとはある職務または状況に対し、基準に照らして効果的、あるいは卓越した業績を生む原因として関わっている個人の根源的特性です。
資質・能力の入れ子構造では、知(knowing)と能力(doing)が結びついて生きて働く知識になります。資質(being)とは、何かを知り、何かができるというだけでなく、それに価値をおき、それを好み、いつでも行おうとする状態になっていることを意味します。つまり資質には価値、選好、態度などが含まれます。
実際のガイドラインで求められているコンピテンシーはbeingを重要視しています。それは良くも悪くも人の深く柔らかなところを絶えず評価します。と同時に特定の要求に応えて現出する能力でもあります。
リフレクションとは省察、反省、内省と訳されます。リフレクションを階層化したコアリフレクションは、その人自身を形成する核になるところまで内省します。
コンピテンシーとリフレクションの二つに共通しているのは、特性、動因、自己認識、存在使命、内省、中核といった言葉が指すような人間の「深く柔らかな部分」を含む全体的な能力を絶えず評価している点です。そうした特徴ゆえの結果として独善に陥りやすくなります。なおかつ、広く多くに当てはまるというよりも特定の要求に応えるという偏りを内包しています。
だからこそ他者との関係性に着目する意味が実践的にあります。
このことの裏付けとして、能力の要因を個人的な特性に求めない点でケアリングの専心性が参考になります。ケアリングにおいて重要なことは他者経験を分かち持つことです。それを引き起こす要素は相手を受け入れる専心性とケアされる人の視点から出発する動機の転移です。
コンピテンシーとリフレクションが内包している人の深く柔らかい部分を含む全体的な能力を評価する難しさと独善や特定の要求に応える偏りという限界に対して、それを補うような何かを探したいと思います。あわせて追加要素を含めた各要素の関係性についても掘り下げたいと思います。前者は先見的かつ未来志向的な行動全般を指すプロアクティブ行動が手がかりになりそうです。なぜなら、他者との関係性へ向かう行為を意味する協働や人と人との関係性と、先見的かつ未来志向的な行動全般を指すプロアクティブ行動はともに、能動的で主体性を持つ個人の行動を指すという共通点を持っているからです。
プロアクティブ行動とは個人が自分自身や環境に影響を及ぼすような先見的な行動であり,未来志向で変革志向の行動です。プロアクティブ行動とケアリングの関係性の実証研究によれば、プロアクティブ行動は情緒的コミットメント、仕事満足感、自己イメージに影響を与えていました。こうしたプロアクティブ行動の与える影響の成果の中に、専門職性の指標であるコンピテンシーが重要視するbeingとの関連性があるのかどうかを考えてみます。情緒的コミットメント、仕事満足感、自己イメージは自身のあり様を主観的に価値付けている状態と捉えれば、先の能力の入れ子枠組みでいう、何かを知っていて、それができるだけでなく、それを好む状態に達していると考えられます。つまりbeingにつながっている可能性があります。またプロアクティブ行動は職業的アイデンティとケアリング行動との間を取り持つ効果があることが明らかになっています。一方職業との一体化意識である職業的アイデンティティからケアリング行動への直接的な影響はありませんでした。
 
繰り返しになりますが、コンピテンシーとリフレクションの共通点は個人の深く柔らかいところを重要視している点です。まさにこれが対人援助職の専門職性の特徴をものがったていると思います。その裏返しで、独善や特定の要求に応える偏りを内包する特徴が見出されます。さらにそのことによって、専門職性を獲得していくプロセスの構成要素として見落としがちな他者と行動の働きに気づかされます。
そう考えると、成長の要件は従来のコンピテンシーモデルやリフレクションだけでなく、プロアクティブ行動を踏まえていくことが考えられます。もっと言えば専門職性や成長を捉える際にbeingのような資質・能力を多用しない、つまりは個人で一人で悩まない、そういうことの一つのアプローチになり得るかもしれません。看護師の実証調査の結果として職業との一体化意識である職業的アイデンティティから直接的なケアリング行動への影響がなかったことは、そうしたことの裏付けと考えられます。
 
 
以上です。GW終わっちゃいましたね。そういえば、台湾のホウシャオシェン監督のもとで映像を学んだホアンシー監督の初作品「台湾暮色」がアマプラで配信されてます。何度も観てるけど観る度に再発見する美しいシーンがあって、定期的に観たくなる映画です。おすすめです。
ではまた!
 
 
 
注16 組織社会化研究において,若年就業者は環境 から影響を受ける受動的な存在という前提で捉えられ,環境に働きかける主体的側面が看過されてきた(Chan & Schmitt, 2000)。
組織社会化とは、「組織への参入者が組織の一員になるために,組織の規 範・価値・行動様式を受け入れ,職務遂行に必要な技 能を習得し,組織に適応していく過程」(高橋 1993)
組織社会化は4つのプロセスから成る時系列的変化である.具体的には,1)組織参入前に,組織に関する知識を獲得し,組織参入時の社会的期待が形成され る「予期プロセス」,2)組織参入直後に,事前期待との乖離で葛藤を感じる「接触プロセス」,3)組織参入後に,周囲への積極的な働きかけによって組織適応を 果たしていく「適応プロセス」,および4)組織の一員 として期待される役割を担い始める「安定プロセス」 である(ASHFORTH et al. 2012).
このような組織社会化プロセスを促す要因に着目した研究は,組織が主体となって個人の社会化を促す「組織による社会化」と, 個人が自ら社会化を図る「個人による社会化」の2つ のアプローチから検討が行われている.
日本では、終身雇用制度や年功序列型賃金体系の見直しによって,入社直後から企業と個人の間で交 わされる心理的契約にひずみが生じ,会社主導による 長期的な人材育成・キャリア開発に依存するのではなく,自ら自律的にキャリア形成することが求められる ようになった(尾形 2017).このような雇用慣行の変化を背景に,主体的・能動的存在としての個人という見方に着目し,自ら周囲や環境に影響を及ぼすことで 組織社会化を図る個人の意識や行動を明らかにしようとする「個人による社会化」アプローチに基づく研究知見に社会的な関心が寄せられている(尾形 2020)
 
注17  小川は、このことについて、掲げられ標榜された組織目標が形式知的なものであれば、組織側からの伝達は容易である。昨今のように経営理念やミッションといった 形で明示されているのであれば、個人からの働きかけで入手しやすい知識になっていると考えられる。自己イメージの学習についても、内省の主体は新人側、個人であり、最終的な情報源は自分自身である。この意味でこれら 2 つの領域においては、個人の側からの主体性が社会化成果に直結しやすい。 しかし、職務遂行に関する知識や職場の人間関係に関する情報について多くを保持しているのは組織の側、あるいはそのエージェントである既存成員の側であろう。しかも職務遂行の過程や人間関係の機微は必ずしも言明されているものではない。すなわち暗黙知であることも多い。そのような事柄についての学習においては、新人側からの働きかけだけでは不十分であろう。組織の側からの積極的な働きかけや手助けがなければ伝達は難しいものになるであろう。
職務遂行領域と人間関係領域に最大の影響力を及ぼしていたのは内容的社会化戦術であり、今後のキャリ ア・パターンを明示する社会化方策である。一方で内容的社会化は組織目標領域や自己学習領域にはほとんど重要な影響力は及ぼしていなかった。それを踏まえて、実践的には、主体性や積極性の欠如を嘆くだけでは人は育てることが出来ない、ということである。ましてグ ローバル経済を背景に人材の多様化を進める際には、組織の側からの育成が不可欠であろ う。一方で個人の側は、そのキャリアをマネジメントしていく上では、その指針となる自 己イメージの学習が重要であり、それには組織的環境の中での相互作用と同時に、自身からのプロアクティビティの発揮が重要である、ということであろう。
 
注18  仕事上の問題に直面した際に,それを解決するために新しい方法を試してみたり実行することで, 自分自身に求められている仕事上の役割や知識を獲得していく役割社会化に影響すると考えられる。また,積極的に新しいことにチャレンジできるなど,仕事に対して自律的に判断し,行動できていると考えられるため主観的業績や仕事のやりがいが得られ,アイデンティティの確立に良い 影響を及ぼすと考えられる。仕事社会化は仕事に関する知識を深めたり,スキルを高めること。会社社会化は社内の人間関係や会社全体の仕組み,ルールなどに関す る多様な情報を得ること。
革新行動に影響を及ぼしていた職場特性は, コミュニケーションの積極性と革新への積極性 の 2 つが有意な影響を及ぼしていた。その一方で,学習への積極性が有意 傾向ではあるが負の影響を及ぼしていた。このことは,職場全体で学習することで画一的な知識を獲得してしまい,革新的な行動を抑制してしまう可能性を示していると言える。フィード バック探索行動には,職場の学習への積極性が 有意傾向ではあるが正の影響を及ぼしていた。ネット ワーク構築/活用行動とポジティブフレーミン グ行動に関しては,有意な影響を及ぼす職場特性はなかった。職場内外の他者と良質な関係性を構築したり,それを仕事に活かそうとする行 動やネガティブな現実も前向きに捉える行動 は,職場の特性によって喚起されるというより は,個人に依存する傾向があるということが示唆された。
職務特性において興味深い点は,タスク依存性がネットワーク構築/活用行動に有意な負の影響を及ぼしていた点である。タスクが相互依存的であれば,職場の上司や同僚と接触 する機会が増え,必然的にコミュニケーション をとる機会も増えることとなり,そのような仕 事を通じての上司や同僚とのコミュニケーショ ン機会の多さは,若年就業者のプロアクティブ 行動を促進すると考えられたが,反対の結果と なった。確かに,同じ職場内の同僚とのコミュ ニケーションは増え,関係性は良くなるかもし れないが,それは強固な内向き志向の人材を育成してしまう可能性が高くなる。その一方で,タスク重要性が,ネッ トワーク構築/活用行動に有意な正の影響を及 ぼしていた。社内での狭いネットワーク形成にはタスク依存性が,社内での広いネットワーク形成 にはタスク重要性が影響を及ぼしていることが わかり,個人のネットワーク形成には,日々携わる職務の特性が影響を及ぼしていることが示唆された。
 
注19 プロアクティブ行動のポジティブフレームが媒介となり、職業的アインデンティティが専心性に有意な正の影響を与えていた。一方でケアリング行動の専門的技術への媒介は有意でなかった。上司との関係構築は職業的アイデンティティと専心性と専門的技術への媒介効果が有意だった

看護師とケアリング

看護師の職場は不規則な勤務の他に時間外が多く、その大部分を間接看護業務が占めています。間接業務とは記録、看護師間の報告と申し継ぎ、医師への報告連絡、薬剤業務、入退院時の世話などです。過去5年間の看護師の有効求人倍率は2倍前後で離職率は11%前後となり看護師不足が定着しています。これを受けて就労環境改善のための政策が打ち出されています。(注13)人材確保・定着のためのキーワードとしてワークライフバランスが挙げられています。(注14)
*わが国の臨床看護師におけるワーク・ライフ・バランスに関する文献検討本島ほか2016
 
看護技術の適用は看護実践と呼ばれ、客観性があり再現可能なものである側面と、個別性を持ち、相手や場に応じて適用するので再現不可能なものであるという二つの側面を併せもっています。後者について、西田は看護師がケアの受け手に「寄り添いたい、寄り添わねばならない」 と真に感じることがケアリングの根底になければならなず、それは相手を身に感じとることでやり方ではなくあり方なのであると表現しています。**
**看護における〈ケアリング〉の基底原理への視座: 〈ケアリング〉とは何か西田2018
 
看護師のケアリング行動の調査によると(注15)患者の容態の読み取りは、身体反応として表現される微細なサインを感じ取る、違和感を手がかりに心情を推し量るなど非言語的反応の変化から看護師は読み取っていたことを示しています。一方で患者のその時々の反応のみならず,これまでに患者に起こった出来事や治療経過を踏まえたうえで患者の心身の変化を察知していました。つまり意思をくみ取るために,患者を全人的にとらえ連続した時間軸のなかで,目の前の反応を意味づけていくことで、より深くとらえていたと言えます。
 
 

ケアリングのあらまし

ケアリングという用語が注目され始めたのは、哲学者のメイヤロフの「ケアの本質 On Caring」が1971 年に出版されてからです。日本では1989年と1992年 に開催された看護学の国際学術集会において、ケアリングに関するセミナーが設けられたことを機にケアリング概念の普及が推し進められました。それから現在に至るまで、ケアリングは看護の中心的概念として認識され続けています。メイヤロフのケアリング論は看護や医療といった個別の職業としての視点から論じたものではなく、諸分野に通底する原理的で本質的なケアリング論でした。**加えて、多くのケアリング理論家の源泉となっている相手を援助することによって、ケアリング提供者も自己実現するとして、ケアリングは相互関係であることを示唆しました。***ケアリングにおいて重要なことは、私がその人の立場であったらという捉え方ではなく、その人の背景や価値観等も含めて私とは異なる存在としてその人はどう捉えるのかという、他者経験を分かち持つことを示しています。
**前掲西田2018
***ケアリングの概説筒井2018
 
先のアメリカの教育学者のノディングズはケアリングを相手を受け容れる専心没頭と、その結果として生じる動機の転移の二つの語を用いて記述しました。**
**前掲西田2018
専心没頭とは他者を受け入れるためには、その人が私に向けて物語ること、他者が伝えようとしていることを誠心誠意、聞いて、見て、感じることで、私はその人の喜び、あるいは苦しみを感じようとすることである。その行為にあたってはケアする人の視点ではなく、ケアされる人の視点から出立するという動機の転移を契機とすると言っています。
つまり私の関心が私自身の現実からその人の現実へと移転することで、その人が何に困難を感じているのか、今、何を欲しているのかを自分のこととして受け止めるのである。****
前川氏は、ケアされる人の視点をもつとは、私がその人の立場だったらどうするのかではなく、その人の生きられる世界において、その人を理解しようとする在り方と言います。それはその都度事態にそいながら柔軟に対応するため、ケアリングの関係とはケアする人とケアされる人との応答的な関係の更新と共に、ケアリングの在り方も更新されていくことになると述べています。
ここで追加しておきたいのは、看護学におけるケアリングの先行要件として重要視され始めてきたのが環境です。ケアする人が支持される環境があって、ケアリングが可能になりケアリングによって環境も変化するとされて、環境がケア提供者を支援するためには、何が必要なのかを探求することが一つの課題とされます。(ケアリングの概説 筒井2018)
これはスピッた話ではなく、ここでおさえておくべきことは専心没頭と動機の移転です。ケアされる人の喜びや痛みを感じる専心性とその人の視点を持つ動機の移転によって私の関心が自分の現実から離れ他者を受け入れる、それは一方で、人格的要素を取り込んで境界線が明確でなくなっている事態を打開することに通じるように思えます。
****ケアリングと教えること 前川幸子
 
 

新しい組み合わせsomething new

ここからはコンピテンシーとリフレクションが内包する独善や特定の要求に応える偏りと人の深く柔らかい部分を含む全体的な能力を評価する難しさとという限界に対して、それを補うような何かを探してみたいと思います。手がかりはこれまで二つの概念の中で繰り返し言及されてきた協働、環境、人と人の関係性、他者経験へと向かうような何かの気がします。あと追加要素を含む各要素がどのような関係になるのかという点についてもあわせて掘り下げたいと思います。前者は先見的かつ未来志向的な行動全般を指すプロアクティブ行動がヒントになりそうです。なぜなら、他者との関係性へ向かう行為を意味する協働や人と人との関係性と、先見的かつ未来志向的な行動全般を指すプロアクティブ行動はともに、能動的で主体性を持つ個人の行動を指すという共通点を持っているからです。後者は看護師を対象にしたケアリング、リフレクション、プロアクティブ行動の関係性の実証調査を見ていきます。
 
 
注13 政策対応では、復職を支援するナースセンターや勤務環境改善や再就業支援する医療勤務環境改善支援センターが都道府県にあるほか、2014年から地域医療介護総合確保基金を創設し看護人材の確保養成のための研修や就労環境改善のための体制整備を図っている。
 
注14  岡部らは、WLBを考えるうえで、何を重要視するのかは、個々によって差があり、人生設計において何に価値を置くかは人それぞれであるため、バランスの在り方は主観的な評価に基づいていると述べている。個人に関連する要因は、「経験年数」「婚姻の有無」「子供の有無」「精神的健康度」「身体疲労」「健康習慣」「キャリア形成志向の有無」「生活のゆとり」「仕事や生活の評価」が関連していた。本来の目的とされる看護師のWLBとサービスの質の向上や生産性との関連の実証研究はない。これに関連して一般企業の社員を対象にした調査ではWLBの追求のみでは生産性の向上は見込めなく、ポジティブ・アクション、つまり働く事や、仕事に対する意欲の高い女性を積極的に登用し、能力を発揮してもらうという企業の取り組みや制度とWLBの関連を調査し、両方を積極的に行うことで生産性が高まると報告されている。
 
注15 大崎ほか2019は、ICU看護師のケアリング行動を調査するため、ICUで勤務する、臨床経験年数が平均12年、ICU経験年数が平均8年の看護師 5 名に対してインタビューを実施した。その結果、ICU看護師のケアリング行動として 7 つのカテゴリーと 17 のサブカテゴ リー,50のコードが抽出された。例えば、患者から表出される心身の反応の変化を、メッセージとして認識し受け取ることにより、患者の主観的な体験を意味助ける声にならない反応を意味づける。この読み取りは3つのサブカテゴリー、身体反応として表現される微細なサインを感じ取る、違和感を手がかりに心情を推し量る、非言語的反応の変化から苦痛を読み取るが含まれていた。そして意図 をもって患者と積極的に意思疎通を図り続けることで ニーズを引き出していた。

学び続ける教員像

教師の働く状況は、2000年代からベテラン層の大量退職によって、若手教員の増加とともに初任期におけるメンタルヘルスの悪化と離職の増加の問題が生じました。それ以降、教師の成長に影響を及ぼすさまざまな教師教育政策が打ち出されます。しかし結果としては長時間労働と教師不足が顕在化しています。そうした中、2015年「チームとしての学校」 の構想が打ち出されました。チーム学校は学校の新たな性格を示すとともに,教師の働き方や仕事の転換を示唆しています。(注8)
*これからの学校における教員の「役割」について 芹澤2021
 
これからの教師像について、2012年の中央教育審議会答申で教員を高度専門職と位置づけ「学び続ける教員像」の理念の確立と実現を示しています。その文書の複数箇所で省察という言葉が使われています。つまり教師の専門性として学ぶことが強調されています。学び続ける教員像は、新しい教師モデルとして教師の専門性の実践の中核に反省的実践家を位置付けました。**
**前掲 芹澤2021
 
反省的実践家について浅田氏はこう述べています。***
「それは熟練教師が有する知識や能力を教師の専門性の基準とするということではなく、教師自身が自らの授業実践から学び、新しい知識や能力を獲得していくこと、その結果として熟練教師が有するような知識や能力を獲得するということである。」
これつまり、リフレクションです。教師の自己研鑽や職能発達プログラムにおいてリフレクションが中核として位置づけれらえるようになります。
***教師の学習と成長 浅田他 2021 ミネルヴァ書房
 
ここで追加しておきたいのは、教師の質をめぐる世界の動向についてです。個々人の教師の教育実践の質から学校教育の質に移っていると今泉氏は指摘し、新し教師の質の捉え方を三つのレベルに分けた上で、二つの質向上モデルを示しています。一つは従来の教師個人モデル、もうひとつは学校教育改善モデル。これは教師が役割行動を通じて授業や学校教育上の諸問題を同僚と協働して解決していくことによって、教師の認識や価値観、行動を変化させる結果として生じる教師の質の向上のモデルです。
さらに、共通課題を解決するために協働するチームではなく、多様な自律した学びが繰り広げられている開かれた公共空間として佐藤学氏が提唱する学びの共同体があります。(注9)
 
 

リフレクションのあらまし

リフレクションとは、日本語で省察、振り返り、反省、内省の意味です。
教師教育においてリフレクションが注目されるようになったのは、アメリカの哲学者であるドナルド・ショーンが技術的熟達者から反省的実践家に専門家モデルを転換したことがきっかけとされます。反省的実践家モデルとは、実践を行う当事者自らが、現実から問題状況を設定し、そうした状況と関わる中で新たな知を生み出し解決していくという考え方です。
この反省的実践家が知を生み出すための鍵概念として、ショーンはリフレクションを提案します。反省的実践家は教師や看護師を中心に広く支持され、現場の実践者が有する知や学びに関心が向けれるようになります。ショーンが反省的実践家を提唱してから30年以上が経過しましたが、教師教育においてリフレクションは現在も支持され続けているそうです。
ただ実際には、一口にリフレクションといえるほど簡単じゃないようです。
たとえば、教師を対象にした調査によれば、経験年数の多い教師群になるにつれて、児童の視線や表情に注目していた一方で、教職経験の少ない教師群は児童の姿勢に注目する傾向が見られました。別の研究では、初任者教師は問題状況を点で捉えて授業を改善しているのに対し、ベテラン教師は線で捉えて授業の改善点を考えていました。二つに共通する初任者教師とベテラン教師との違いは、授業認知の情報源です。さらに状況の読み取りも異なっていました。ほんの一時点の認知を手がかりにリフレクションすることで、本質的な問題構造を十分に捉えきれないまま自身の行為や見方を変えてしまう、こうした認知の違いがついてまわります。(注10)
 
 

玉ねぎの皮

コルトハーヘンらはコア・リフレクションを提唱しリフレクションそのものの段階性及び順序性を指摘しました。リフレクションの階層を6 つに分けた玉葱モデルでは、玉ねぎの外側の皮から中心までのように、環境、行動、能力という外的要因から考え方、自己認識、存在使命という内的要因までに分けて、双方の要因との往還を通して、伸長していくことを示しました。彼らはこの内的要因としての省察を コア・リフレクションと呼んでいます。玉葱モデルにおける内的要因の階層の最も中核となす部分を「その人自身の核となる資質」コア・クオリティと言い、コア・リフレクションは、人の長所や強みとするその人自身を形成する核という所までについて振り返ることと定義しています。****
****教員養成段階における教師教育の展望 茂野2017
 
 

独善に陥ることなく

ここまで深くなってくると、やはり運用面でリフレクションに対する解釈に混乱があることが指摘されます。たとえば、ショーンの主張を過去の振り返りに還元し、授業でうまくいった点や改善を要する点を教師に回顧させる活動をリフレクションとして単純化することが挙げられます。これは過去の実践を吟味して最適な授業方法を考えるというリフレクションの見方です。(ここでは触れてませんが、ショーンはリフレクションを3つに分けて、行為の中の知、行為の中の省察、行為についての省察と定義しています。(注11))
また、教師が自らの実践のリフレクションを独善に陥ることなく行うとともに、他者からの視点や他者のリフレクションとの比較から客観的に行えるようになっていく必要が指摘されます。*****
さらに、このプロセスを一人の教師が辿ることができるためには少なくとも板書の仕方、発問指示の仕方、あるいは授業場面においてどのような状況を認知するのかという授業に関する知識、指導に関するスキルに習熟していることが求められます。*****
*****教師の学習と成長 浅田他 2021 ミネルヴァ書房
 

深く柔らかな部分と偏り

ここまでザックリと、コンピテンシーとリフレクションを見てきました。二つに共通しているのは、特性、動因、自己認識、考え方、使命といった言葉が指すような人間の深く柔らかな部分を含む全体的な能力を絶えず評価している点です。もう一つは、そうした特徴ゆえの結果として独善に陥りやすい。なおかつ、広く多くに当てはまるというよりも特定の要求に応えるという偏りを内包している点だと思います。
もっと言えば、人格的要素を取り込んだ今、その境界線は明確ではなくなっています。つまり、資質・能力の何を目標としどこまでを評価対象とするのか。****** そうした事態によって個人の根幹と専門職性を同一視するほどに問題はセンシティブで著しく人を消耗させる。だからこそ、他者との関係性に着目する意味が実践的にあります。このことの裏付けとしてケアリングに触れたいと思います。
******前掲松下2016
 
ケアリングは個人的な性質や特性に依拠するのではなく、人と人との関係において生起することを重視します。(注12)
教育哲学者のネル・ノディングズは教えることの中核にはケアリングがあると言っています。*******また看護分野でも看護の本質はケアリングと言います。ケアリング概念は、複数領域で用いられ、教育学、生命倫理学、発達心理学においても用いられて定義は様々です。********
次に看護師とケアリングを軽く掘りたいと思います。
*******ポスト・モダン時代における“相互作用的専門職” としての教職教師の専門職性におけるケアリングと情動的次元の探究 木村2011
********ケアリングの概説 筒井2018
 
 
 
注8 チーム学校は,学校の新たな 性格を示すとともに,教員の働き方や仕事の転換を示唆している。「チーム学校」を実現するための視点と改善方策として,「⑴専門性に基づくチー ム体制の構築」,「⑵学校マネジメント機能の強化」,「⑶ 教職員一人一人が力を発揮できる環境の整備」を掲げている。これまでの教員の「役割」は,「あるべき教員」の姿からつくられてきたところある。社会の変容と学校の改革の中で,その役割も問い直していかなければならないと指摘している。これからの学校における教員の「役割」について ─学校内外の協働関係構築における課題に注目して─芹澤ほか2022
 
注9  こうした教師教育の捉え方の相違は、教師の専門性として何を求めるかということにも違いをもたらす。教師個人モデルでは一定水準以上の知識、技術体系が基本となるのに対し、学校教育改善モデルでは知識技術体系というよりも、教育実践を通じて子どもだけでなく他のさまざまな人々と交流し合う中で新たな知識技術を生み出し、獲得する方法を常に高めていくことが専門性の中核となってくると指摘する。
佐藤学が提唱する学びの共同体は、チームが共通の課題の解決を目的としたプロジェクト型のチームが編成され協働を行うのに対して、学びの共同体はあくまでも共同体であってチームではない。そこは多様な自律した学びが繰り広げられている開かれた公共空間。このチームとの決定的な違いを学びという共通の課題をおくことで主体的な協働の場に読み替えたものが学びの共同体論である。
この協働のスタイルを共存モデルと呼び、ディスカッションを通して合意を生み出す同僚性よりも、異なる意見が絶えず平行線において交流され行動において連携しあいながら改革を推進する。
 
注10 中村浅田2017は小学校社会科の授業動画から100枚の写真スライドを抽出し1枚につき3秒で次のスライドに切り替わるフォトムービーを作成し、教師に事前に指導案を確認した上で、スライドを見ながら重要な場面に感じたスライド番号をメモし、スライドのどこに注目したか、なぜ重要だと考えたのかを記入する調査をした。教師は教職経験年数ごとに初任者教師1-4年未満、若手4-9年、経験10年以上に分類した。結果は経験年数の多い教師群になるにつれて、児童の視線や表情に注目していた。一方で教職経験の少ない教師群は児童の姿勢に注目する傾向が見られた。
 
注11 ショーンの主要な三つのリフレクション概念の定義には、行為の中の知、行為の中の省察、行為についての省察がある。まず、行為の中の知とは、日常の習慣的行為の遂行によって表出される知と定義することができる。次に行為の中の省察とは、習慣的行為が予期せぬ結果をもたらして時に自身の行為枠組みに意識的になりながら知を再構成するプロセスと定義されている。そして、行為についての省察とは、行為の中の省察とは対照的に状況を既に過ぎ去ったものとして捉え、新たな行為を試さずに自身の行為や見方を回顧する。ショーンはこれを行為についての省察と呼び、行為の中の知または行為の中の省察で展開されたプロセスについて振り返ることと定義している。
 
注12  ケアリングとは人間関係における在り方であり、他者に対する受容的な応答的な在り方を意味する。ケアリングには個人的な優しさや思いやりは確かに必要だが、その本質は単なる美徳や個人特性ではない観点で捉えることが重要である。つまりケアリングは個人的な性質や特性に依拠するのではんなく、人と人との関係において生起することを重視しているのである。ケアリングと教えること 前川幸子

コンピテンシーのあらまし

コンピテンシーは、はじめに心理学で開発され発展し経営学と教育学に普及した後、経営学から看護学にもたらされた概念です。心理学ではIQ だけでは測れない能力観について読解力や計算力と言った認知能力に加えて、性格変数とされてきた要素をコンピテンシーとして考えるようになりました。それが発展して経営学で人事管理に応用され、コンピテンシー・モデルとして企業において人事管理や評価に使われました。経営学のコンピテンシー・モデルを看護学でほぼそのまま踏襲したアプローチで看護師の管理・成長に活用しています。(注5)
*複数の学術領域におけるコンピテンス概念把握の試み 西・加藤2017
 
 
経営学においてコンピテンシー概念を確立したスペンサーは、コンピテンシーを「ある職務または状況に対し、基準に照らして効果的、あるいは卓越した業績を生む原因として関わっている個人の根源的特性」として定義し、その職種の有能な人をモデル化したコンピテンシーモデルを作成しました。
ただ、スペンサー自身が氷山モデルを用いて述べているように、スキル・知識(氷山の上の見える部分に位置する)は比較的開発しやすいが、特性、動因(氷山の水面下に位置して見えない) は人格の中核的なコンピテンシーであり評価・開発が難しいところがあるとしています。
実際、児童発達支援職を対象にしたコンピテンシー要素の調査では、関心意欲態度は専門性のためのコンピテンシーの土台になるとして、初期キャリア形成期のコンピテンシーモデルは、児童発達支援に携わる土台になる意欲や関心と社会人として基礎的な力が必要と指摘しています。**(注6)
**幼児期の障害児通所支援に携わる支援者の専門性向上のためのコンピテンシーモデルの検討 藤田2019
こうしたコンピテンシー・モデルを実際に運用する際の課題として、網羅的で数が多すぎる、他社の借り物で内容の差別化ができないなどがあげられています。
コンピテンシーの批判の多くは、コンピテンスとパフォーマンスの相違点や、ケイパビリティ(注7)や卓越性といった他の概念とコンピテンスの違いが不明確であり、コンピテンスの認識に混乱が見られ、その評価基準の有効性に関する検討が不十分といいます。
しかし、概念とモデルを区別して定義することが提案され、コンピテンシー・ モデルを用いた人材開発や人事評価の分野では期待は高いようです。***
***前掲 西・加藤2017
たとえば、福祉職養成課程の実習教育では、実習前後を通じて学生の客観的な変化の評価、 教育目標の共通認識、教員・学生・現場指導者それぞれの立場からの教育効果の測定とふりかえりのためのツールとして活用されています。****もともとの定義や意味内容は拡大されて色んなことに広がっています。
****社会福祉教育におけるコンピテンシー評価項目の検討 藤田他 2008
 
 
先の松下氏はコンピテンシー概念の特徴として、行為志向、ホリスティックで統合的、要求に応えるもの、生涯を通じて発達変容するもの、この4点を指摘します。これらの持つ意味を対概念との対比を通して描き出しています。そしてコンピテンシーの持つ偏りに自覚的になる必要を指摘します。
たとえば、要求に応えることの対概念は価値の選択形成です。具体的にはコンピテンシーとケイパビリティを対比します。コンピテンシーが特定の要求に応える能力であるのに対して、ケイパビリティは要求を定めず人が思考し選択する自由を拡大する能力と捉えられます。
以下引用です。
 
「コンピテンシーという概念の意味的な偏りが意識されず、それだけが教育目的として価値があるように見せられることに警戒しなければならない。コンピテンシーのホリスティクな性格は人を見るレンズを増やし多様性を把握するのに寄与するはずだが、一方でそれが個人の評価においては、あたかも工業製品のスペックのような、人の “性能のリスト化につながりかねない。ハイステイクスな評価では態度・価値観の評価を行わないこと、コンピテンシーにおいて一定のレベル(最低閾値)を保証する努力は行われるべきだが、それ以上は「垂直的序列化」よりは「水平的多様化」が重視されるべきであることを、あらためて確認しておきたい」と言ってます。
 
 

変容→成長

コンピテンシーの特徴は、行為志向、統合的、特定の要求に応える、生涯を通じて発達変容するものいうことでしたが、そこから浮かんでくるのは、相手から受け取ったものへの応答というかたちで立ち上がり、個人に特有の性質を含んだ行動を起こす、その行為の核は人の深くて柔らかいところを共振させながらハートもマインドも統合して出力される能力と言えそうです。さっきよりはイメージが膨らむでしょうか?。
そう考えると、パッと見では先天的なつながりが強うそうですが、同時に変容すると言ってて、それがどのようなプロセスか気になります。まさにそれが資質・能力向上の方法ですから。
この点について、実際に教師の職能発達プログラムで採用されている反省的実践家とリフレクションがヒントになりそうです。
前回のコルブ(1984)の経験学習理論はレビンやピアジェやデューイの理論を発展させていましたが、デューイ(1938)はリフレクションの概念を提唱しています。リフレクションは省察や内省と訳されます。コルブの経験学習モデルは、経験のみから学習するのではなく,経験を多様な観点から検討する内省的観察のプロセスを伴うことで学習が生起されると説明します。でも内省的観察の詳細は明らかにしていませんでした。リフレクション(省察、内省)の構造を実践的に分析し反省的実践家を提唱したのがショーン(1983)です。反省的実践家は教師の専門職性に大きな影響を与えました。次にそれを掘り下げてみましょう。
 
 
 
注5  心理学では、ホワイトによる動機づけに関する理論的研究からコンピテンス研究が発展した。その後 IQ だけでは測れない能力観についてのマクレランドの議論から、従来の読解力や計算力と言った認知能力に加えて、性格変数とされてきた要素をコンピテンスとして考えるようになる。経営学では、マクレランドの研究から発展し、人事管理の様々な段階で応用可能なものとしてコンピテンシー・モデルを作成し、企業において人事管理や評価に使われた。看護学においては、看護管理の場面では、経営学のコンピテンシー・モデルをほぼそのまま踏襲した要素主義的アプローチで看護師の管理・成長に活用している。
心理学者ホワイト(R. White)は、1959 年に動機づけを説明する概念としてコンピテンスを提唱した。従来研究されてきた飢えや乾き、性欲といった動因に対して、探索、活動、 操作といった新たな動因には「相互に共通性が多く」あるとして、これら新しい動因を個々に独立して分析するのではなく、相互の関連の中で理解する必要を提起し、 「それらを『コンピテンス』という共通の概念の下に置くことは有用である」と説明した。
 
注6 藤田2019は、児童発達支援センターと児童発達支援事業に勤務する職員を対象として、保育学研究、社会福祉学、看護学等の先行研究から関心・意欲・態度、社会人基礎力、知識、技術、実践と省察の5領域にコンピテンシーを整理し145項目のアンケート紙を作成し無記名アンケート調査を実施。管理職38名、児童発達支援管理責任者42名、支援者500名より回答を得た。
結果は、回答者の8割が仕事の関心や意欲を持って携わっていた。回答者の9割は家族支援や記録、個人情報の重要性を理解しているのに対して、医療や特別支援教育、心理、障害児福祉サービスに関する知識を持っているとの回答者は5割を切っていた。技術に関しては回答者の8割以上が、一人一人の子どもを理解している、最善の利益を遵守した支援、日々の記録を書くことができる、子ども遊びを拡げるための支援ができる等の回答があった。一方、家族支援や心理に関する技術、地域の社会資源の紹介等は5割を切っていた。実践と省察に関しては回答者の9割以上が、日々の子どもとの関わりを通して子どもの理解を深めている、関わりを振り返っている、家族との関わりを大切にしている、ふりかえった内容を実践に活かす努力をしている、困ったとき同僚等に相談していた。その上で藤田は、関心意欲態度は支援者自身の姿であり感性、態度、信念等が包含されており、支援・人的サービスの従事者のコンピテンシーモデルの特徴は、個人的効果性のコンピテンシーが多くを占め、従事者は自分の感性、 態度、信念等と仕事が一体化していることを踏まえて(Lyleら2003)、関心意欲態度は専門性のためのコンピテンシーの土台となるして、初期キャリア形成期のコンピテンシーモデルは、児童発達支援に携わる土台になる、意欲や関心と社会人として基礎的な力を土が必要と指摘する。