2023/05/09

ワークスタイルディギング 対人援助職の専門職性 第5回 

プロアクティブ行動のあらまし

近年の組織社会化研究では,若年就業者を環境に影響を及ぼす主体的な存在として捉える方向に研究関心がシフトしつつあります。それがプロアクティブ行動の研究です。(注16)組織を取り巻く環境の変化が進むにつれ,組織成員は従来の方法や与えられた役割を遂行するだけでは変化する環境に対応するのが困難であることが指摘されています(太田・竹 内・高石他,2016)。そのため,組織に所属する個人は, 先見的志向に基づき率先的に組織の問題解決等を行いながら自らが組織環境に働きかけ,組織に適応していく必要があると考えられます。**
*若年就業者の組織適応を促進するプロアクティブ行動と先行要因に関する実証研究 尾形2016
**職業的アイデンティティがケアリング行動に与える影響 小野寺2021
 
プロアクティブ行動に関する先駆的研究であるアッシュフォードら(Ashford & Black1996)によれば、プロアクティブ行動とは「個人が自分自身や環境に影響を及ぼすような先見的な行動であり,未来志向で変革志向の行動」と定義されます。そしてプロアクティブ行動として次の7つを提示しました。
所属組織の力学や部門間の関係性など組織に関する情報を収集しようとする「情報探索」, 仕事に対するフィードバックを上司や同僚に求めようとする「フィードバック探索」,所属組織内で行われる交流会に参加しようとする「一般的社会化行動」,部署外の人的な繋がりを拡張しようとする「ネットワーク構築 」,上司との良好な関係性を築こうとする 「上司との関係性構築」,職務の役割や範囲を調整しようとする「職務変更交渉」,物事を良い方向に捉えようとする認知的傾向としての「ポジティブフレーミ ング」の7つです。***
最後のポジティブフレーミングは,個人の意思決定の準拠枠となる知識の構造と捉えられ行動とは異なると言われますが、アッシュフォードら(Ashford & Black1996)は,新しい状況を理解する際,このフレーミングがどのような行動をとるべきかについて影響を及ぼすためプロアクティブ行動に含めています。
***プロアクティブ行動がリフレクションを媒介して職場における 能力向上に及ぼす影響 − 20代の若年労働者に着目して− 田中ほか2021
 
以下引用です。
 
プロアクティブという言葉が言及され出したのは90年代前半の諸研究からであろう(e.g., Miller & Jablin,1991; Ostroff & Kozlowski, 1992; Morison,1993a,b)。プロアクティブ行動について注目される契機は、新人の意味形成過程への注意を喚起したシンボリック相互作用論的アプローチの諸研究であると思われる(e.g., Louis, 1980; Reichers, 1987)。しかし、新人の意味形成過程をそのまま研究することは難しいため、そこで代わりに、新人が新しい役割や組織環境についてより学ぶために、どう積極的に情報を探すのかについて注目することになった(Major, et al., 1995)。
例えばOstroff & Kozlowski(1992)は、職務遂行に関する情報に関しては、観察よりも試行錯誤によって多くを得ているが、人間関係や組織に関する情報は試行錯誤よりも観察によって多くを得ていることなど、情報分野によって異なった情報探索スタイルが用いられていることを示したを示した。同じような調査に、Morrison(1993b)があるが、ここでは職務遂行の方法に関する情報は直接質問が用いられ、役割期待や組織規範に関する情報や業績のフィードバックに関する情報は観察が多用されていることを示した。****
****組織社会化戦術とプロアクティブ行動 の相対的影響力 ―入社 1 年目従業員の縦断的データからドミナンス分析を用いて―小川2012
 
こうしてプロアクティブ行動には様々な手立てがあることが示されましたが,Ashford & Black(1996)は,新しい組織に参入したときに行われる手立てを抽出し,様々な組織に雇用されたばかりの学部卒業生を対象に調査を行い,上述した7つの尺度を開発しました。もともと独立に探求されてきたそれらの行動は、プロアクティブ行動というラベルの下にまとめられて研究が定着していきます。組織社会化以外の研究領域でも用いられ、その定義や意味内容が多様化し拡大しながらも、個別行動ごとに実証が進んだことや、集約した尺度を用いたことでプロアクティブ行動に関する研究が定着していきます。
 
 
プロアクティブ行動の実証研究の結果から、それが様々な何かに及ぼす影響が示されています。たとえばアッシュフォードら(Ashford & Black 1996)は、情報探索,一 般的な社会活動,ネットワーク作り,職務変更交渉,ポジティブフレームのプロアクティブ行動は自身の置かれた状況をコントロールできることを求める制御欲求に効果を与えること、フィードバック探索,ポジ ティブフレーム,上司との関係構築,情報探索のプロアクティブ行動は仕事満足に効果を与えること、上司との関係構築とポジティブフ レームは職務のパフォーマンスに効果を与えることを示しました。Wanberg & Kammeyer-Mueller(2000)は,関係構築活動が集団への統合に正の関係を持つことを示しています。
日本においては、小川氏は入社1年目を対象に縦断調査を実施し、組織主導の組織社会化戦術と個人主導のプロアクティブ行動の学習成果への影響を検証しました。結果は組織目標と自己イメージの学習については、個人のプロアクティブ行動の影響力が相対的に大きく、職務遂行と人間関係の学習については組織社会化戦術の作用が大きかったとしています。(注17)
星氏は若年就労者の仕事満足に対するプロアクティブ行動の効果を検討した結果、仕事満足に対してポジティブフレームのみが有意な効果を示したとしています。*****
尾形氏は社会人入社1年目から7年目までの合計165名を対象に質問票調査を実施してプロアクティブ行動が組織適応に及ぼす影響について検証した結果、革新行動は役割社会化と職業的アイデンティティ,主観的業績に影響を及ぼしていた。ネットワーク構築行動は仕事社会化と会社社会化に、ポジティブフレーミング行動は離職意思と情緒的コミットメントに、フィードバック探索行動は役割社会化と離職意思に影響を及ぼしていたとしています。(注18)******
田中氏ほかの面々は、国内民間企業に勤務する20〜29歳の正社員および契約社員942名を対象にWEBモニター調査を行い、プロアクティブ行動の具体的な内容によって職場における能力向上にもたらす効果が異なることを示しています。その中で職場における能力向上に直接的に有意な影響を与えるのはフィードバック探索行動のみであったとしています。
*****若年就労者個人の仕事満足感に対するプロアクティブ行動の効果についての検討 星2016
******若年就業者の組織適応を促進するプロアクティブ行動と 先行要因に関する実証研究2016
 
とまあ、見ての通り各々の目的によって変数が違うため一貫した結果がなくモデルの構築には至っていないようです。こうしたプロアクティブ行動の与える影響の成果の中に、専門職性の指標であるコンピテンシーが重要視するbeingとの関連性があるのかどうかを考えると、情緒的コミットメント、仕事満足感、自己イメージは自身のあり様を主観的に価値付けている状態と捉えれば、先の能力の入れ子枠組みでいう、何かを知っていて、それができるだけでなく、それを好む状態に達していると考えられます。つまりbeingにつながっている可能性があります。他にもパフォーマンス、役割はdoingと仕事社会化、会社社会化、組織目標はknowingとつながっていそうです。次はプロアクティブ行動を含めた要素間の関係性を見てみましょう。
 
 

職業的アイデンティティ→プロアクティブ行動→ケアリング

小野寺氏は看護師を対象に職業的アイデンティティ、プロアクティブ行動、ケアリング行動の関係を調査しています。具体的にはインターネット調査会社に登録されている看護師を対象に質問紙調査を実施し439 名から回答がありました。質問項目は、職業的アイデンティティ6項目、プロアクティブ行動項目はポジティブフレ ーム3項目と上司との関係構築3項目、ケアリング行動は専心性5項目と専門的技術7 項目でした。職業的アイデンティティとは従事する職業に対する価値や信念の内在化の程度を表す概念です。価値は個人の信念を内包しています(Rokeach, 1968)信念は,人間の態度や行動を方向づける高次の認知的要因です(Flavell, 1979 ;松尾, 2006。例えば看護師であることを好 む」,「看護の現場で働いていることを誇りに思 う」のように(Hao et al., 2014),看護師という職業との一体化意識が職業的アイデンティテ ィと言えます。*******
調査の結果は、プロアクティブ行動のポジティブフレームはケアリング行動の専心性に正の影響を与えていた一方で、ケアリング行動の専門的技術には有意な影響は認められませんでした。またプロアクティブ行動の上司との関係構築は,ケアリング行動の専心性と専門的技術に正の影響を与えていました。(注19)職業的アイデンティからケアリング行動の専心性と専門的技術への直接的な影響はなかったことから、プロアクティブ行動は職業的アイデンティとケアリング行動との間を媒介する効果を明らかにしています。このことから小野寺氏は次のように述べています。
*******職業的アイデンティティがケアリング行動に与える影響 ―プロアクティブ行動による媒介効果の検討―2021
 
看護師が職業的アイデンティティに基づいてケアリング行動を促進するためには,職場の状況を良い方向に変化させる組織適応行動としてのプロアクティブ行動がケアリング行動に対し,重要な鍵を握ると考えられる。これまでリーダーシップや看護職員への支援、仕事の質の評価改善といった状況要因に関する職場環境がケアリング行動に与える影響が着目されるなかで見落とされていた、職業的アイデンティティとケアリング行動との関係性を高めるためには,プロアクティブ行動を媒介させる必要があるというメカニズムを明らかにした。プロアクティブ行動を促すには、職員の能力に応じて,業務改善活動,病院組織の改善やケアリングの質を向上できるようなワーキング・グループ等に参加し,職場の問題を特定し解決する機会によって職員が職場に対してプロアクティブに関わっていくことが挙げられる。
 
 

おわりに

これまでの話をまとめると次の通りです。
専門職化とは、ある職業が専門職の構成要件を獲得していく変化のプロセスになります。なので専門職性を構成する要素を明らかにしておくことが重要になります。
教育効果の測定や専門化の指標とするコンピテンシーが有効かつ重要であると言われています。コンピテンシーとはある職務または状況に対し、基準に照らして効果的、あるいは卓越した業績を生む原因として関わっている個人の根源的特性です。
資質・能力の入れ子構造では、知(knowing)と能力(doing)が結びついて生きて働く知識になります。資質(being)とは、何かを知り、何かができるというだけでなく、それに価値をおき、それを好み、いつでも行おうとする状態になっていることを意味します。つまり資質には価値、選好、態度などが含まれます。
実際のガイドラインで求められているコンピテンシーはbeingを重要視しています。それは良くも悪くも人の深く柔らかなところを絶えず評価します。と同時に特定の要求に応えて現出する能力でもあります。
リフレクションとは省察、反省、内省と訳されます。リフレクションを階層化したコアリフレクションは、その人自身を形成する核になるところまで内省します。
コンピテンシーとリフレクションの二つに共通しているのは、特性、動因、自己認識、存在使命、内省、中核といった言葉が指すような人間の「深く柔らかな部分」を含む全体的な能力を絶えず評価している点です。そうした特徴ゆえの結果として独善に陥りやすくなります。なおかつ、広く多くに当てはまるというよりも特定の要求に応えるという偏りを内包しています。
だからこそ他者との関係性に着目する意味が実践的にあります。
このことの裏付けとして、能力の要因を個人的な特性に求めない点でケアリングの専心性が参考になります。ケアリングにおいて重要なことは他者経験を分かち持つことです。それを引き起こす要素は相手を受け入れる専心性とケアされる人の視点から出発する動機の転移です。
コンピテンシーとリフレクションが内包している人の深く柔らかい部分を含む全体的な能力を評価する難しさと独善や特定の要求に応える偏りという限界に対して、それを補うような何かを探したいと思います。あわせて追加要素を含めた各要素の関係性についても掘り下げたいと思います。前者は先見的かつ未来志向的な行動全般を指すプロアクティブ行動が手がかりになりそうです。なぜなら、他者との関係性へ向かう行為を意味する協働や人と人との関係性と、先見的かつ未来志向的な行動全般を指すプロアクティブ行動はともに、能動的で主体性を持つ個人の行動を指すという共通点を持っているからです。
プロアクティブ行動とは個人が自分自身や環境に影響を及ぼすような先見的な行動であり,未来志向で変革志向の行動です。プロアクティブ行動とケアリングの関係性の実証研究によれば、プロアクティブ行動は情緒的コミットメント、仕事満足感、自己イメージに影響を与えていました。こうしたプロアクティブ行動の与える影響の成果の中に、専門職性の指標であるコンピテンシーが重要視するbeingとの関連性があるのかどうかを考えてみます。情緒的コミットメント、仕事満足感、自己イメージは自身のあり様を主観的に価値付けている状態と捉えれば、先の能力の入れ子枠組みでいう、何かを知っていて、それができるだけでなく、それを好む状態に達していると考えられます。つまりbeingにつながっている可能性があります。またプロアクティブ行動は職業的アイデンティとケアリング行動との間を取り持つ効果があることが明らかになっています。一方職業との一体化意識である職業的アイデンティティからケアリング行動への直接的な影響はありませんでした。
 
繰り返しになりますが、コンピテンシーとリフレクションの共通点は個人の深く柔らかいところを重要視している点です。まさにこれが対人援助職の専門職性の特徴をものがったていると思います。その裏返しで、独善や特定の要求に応える偏りを内包する特徴が見出されます。さらにそのことによって、専門職性を獲得していくプロセスの構成要素として見落としがちな他者と行動の働きに気づかされます。
そう考えると、成長の要件は従来のコンピテンシーモデルやリフレクションだけでなく、プロアクティブ行動を踏まえていくことが考えられます。もっと言えば専門職性や成長を捉える際にbeingのような資質・能力を多用しない、つまりは個人で一人で悩まない、そういうことの一つのアプローチになり得るかもしれません。看護師の実証調査の結果として職業との一体化意識である職業的アイデンティティから直接的なケアリング行動への影響がなかったことは、そうしたことの裏付けと考えられます。
 
 
以上です。GW終わっちゃいましたね。そういえば、台湾のホウシャオシェン監督のもとで映像を学んだホアンシー監督の初作品「台湾暮色」がアマプラで配信されてます。何度も観てるけど観る度に再発見する美しいシーンがあって、定期的に観たくなる映画です。おすすめです。
ではまた!
 
 
 
注16 組織社会化研究において,若年就業者は環境 から影響を受ける受動的な存在という前提で捉えられ,環境に働きかける主体的側面が看過されてきた(Chan & Schmitt, 2000)。
組織社会化とは、「組織への参入者が組織の一員になるために,組織の規 範・価値・行動様式を受け入れ,職務遂行に必要な技 能を習得し,組織に適応していく過程」(高橋 1993)
組織社会化は4つのプロセスから成る時系列的変化である.具体的には,1)組織参入前に,組織に関する知識を獲得し,組織参入時の社会的期待が形成され る「予期プロセス」,2)組織参入直後に,事前期待との乖離で葛藤を感じる「接触プロセス」,3)組織参入後に,周囲への積極的な働きかけによって組織適応を 果たしていく「適応プロセス」,および4)組織の一員 として期待される役割を担い始める「安定プロセス」 である(ASHFORTH et al. 2012).
このような組織社会化プロセスを促す要因に着目した研究は,組織が主体となって個人の社会化を促す「組織による社会化」と, 個人が自ら社会化を図る「個人による社会化」の2つ のアプローチから検討が行われている.
日本では、終身雇用制度や年功序列型賃金体系の見直しによって,入社直後から企業と個人の間で交 わされる心理的契約にひずみが生じ,会社主導による 長期的な人材育成・キャリア開発に依存するのではなく,自ら自律的にキャリア形成することが求められる ようになった(尾形 2017).このような雇用慣行の変化を背景に,主体的・能動的存在としての個人という見方に着目し,自ら周囲や環境に影響を及ぼすことで 組織社会化を図る個人の意識や行動を明らかにしようとする「個人による社会化」アプローチに基づく研究知見に社会的な関心が寄せられている(尾形 2020)
 
注17  小川は、このことについて、掲げられ標榜された組織目標が形式知的なものであれば、組織側からの伝達は容易である。昨今のように経営理念やミッションといった 形で明示されているのであれば、個人からの働きかけで入手しやすい知識になっていると考えられる。自己イメージの学習についても、内省の主体は新人側、個人であり、最終的な情報源は自分自身である。この意味でこれら 2 つの領域においては、個人の側からの主体性が社会化成果に直結しやすい。 しかし、職務遂行に関する知識や職場の人間関係に関する情報について多くを保持しているのは組織の側、あるいはそのエージェントである既存成員の側であろう。しかも職務遂行の過程や人間関係の機微は必ずしも言明されているものではない。すなわち暗黙知であることも多い。そのような事柄についての学習においては、新人側からの働きかけだけでは不十分であろう。組織の側からの積極的な働きかけや手助けがなければ伝達は難しいものになるであろう。
職務遂行領域と人間関係領域に最大の影響力を及ぼしていたのは内容的社会化戦術であり、今後のキャリ ア・パターンを明示する社会化方策である。一方で内容的社会化は組織目標領域や自己学習領域にはほとんど重要な影響力は及ぼしていなかった。それを踏まえて、実践的には、主体性や積極性の欠如を嘆くだけでは人は育てることが出来ない、ということである。ましてグ ローバル経済を背景に人材の多様化を進める際には、組織の側からの育成が不可欠であろ う。一方で個人の側は、そのキャリアをマネジメントしていく上では、その指針となる自 己イメージの学習が重要であり、それには組織的環境の中での相互作用と同時に、自身からのプロアクティビティの発揮が重要である、ということであろう。
 
注18  仕事上の問題に直面した際に,それを解決するために新しい方法を試してみたり実行することで, 自分自身に求められている仕事上の役割や知識を獲得していく役割社会化に影響すると考えられる。また,積極的に新しいことにチャレンジできるなど,仕事に対して自律的に判断し,行動できていると考えられるため主観的業績や仕事のやりがいが得られ,アイデンティティの確立に良い 影響を及ぼすと考えられる。仕事社会化は仕事に関する知識を深めたり,スキルを高めること。会社社会化は社内の人間関係や会社全体の仕組み,ルールなどに関す る多様な情報を得ること。
革新行動に影響を及ぼしていた職場特性は, コミュニケーションの積極性と革新への積極性 の 2 つが有意な影響を及ぼしていた。その一方で,学習への積極性が有意 傾向ではあるが負の影響を及ぼしていた。このことは,職場全体で学習することで画一的な知識を獲得してしまい,革新的な行動を抑制してしまう可能性を示していると言える。フィード バック探索行動には,職場の学習への積極性が 有意傾向ではあるが正の影響を及ぼしていた。ネット ワーク構築/活用行動とポジティブフレーミン グ行動に関しては,有意な影響を及ぼす職場特性はなかった。職場内外の他者と良質な関係性を構築したり,それを仕事に活かそうとする行 動やネガティブな現実も前向きに捉える行動 は,職場の特性によって喚起されるというより は,個人に依存する傾向があるということが示唆された。
職務特性において興味深い点は,タスク依存性がネットワーク構築/活用行動に有意な負の影響を及ぼしていた点である。タスクが相互依存的であれば,職場の上司や同僚と接触 する機会が増え,必然的にコミュニケーション をとる機会も増えることとなり,そのような仕 事を通じての上司や同僚とのコミュニケーショ ン機会の多さは,若年就業者のプロアクティブ 行動を促進すると考えられたが,反対の結果と なった。確かに,同じ職場内の同僚とのコミュ ニケーションは増え,関係性は良くなるかもし れないが,それは強固な内向き志向の人材を育成してしまう可能性が高くなる。その一方で,タスク重要性が,ネッ トワーク構築/活用行動に有意な正の影響を及 ぼしていた。社内での狭いネットワーク形成にはタスク依存性が,社内での広いネットワーク形成 にはタスク重要性が影響を及ぼしていることが わかり,個人のネットワーク形成には,日々携わる職務の特性が影響を及ぼしていることが示唆された。
 
注19 プロアクティブ行動のポジティブフレームが媒介となり、職業的アインデンティティが専心性に有意な正の影響を与えていた。一方でケアリング行動の専門的技術への媒介は有意でなかった。上司との関係構築は職業的アイデンティティと専心性と専門的技術への媒介効果が有意だった